もし、ハチミツと砂糖を激推しする本に引用されているエビデンス論文のほとんどが、甘いジュース、お菓子、シロップを販売する巨大な多国籍企業が資金提供する研究に基づいたもの、もしくは企業の社員が書いたものであったなら、皆さんはどう思われるでしょうか?
大企業が資金提供している研究論文は信用できるのか?
本日の記事は、たびたび論争になるこのトピックを紐解いています。
—目次—
- 利益相反(conflict of interest:COI)とは
- 競合利益(competing interest)とは
- 謝辞(Acknowledgments)とは
- 利益相反のチェック方法
- 透明性のある科学論文、大嘘で悪用する一般健康情報
- 利益相反のチェックはやはり重要
- 『自然治癒はハチミツから』は多国籍企業支援の研究論文に支えらている
- 崎谷博征は本当に生化学を理解していない
- 大企業が資金提供する研究だからと言ってウソではない
- Theリアル質問道場の生化学クイズについて
インターネット上で誰もが自由に読むことができるオープンアクセス(OA)論文は、2000年以降激増しています。
PubMedに登録されるOA論文数(画像:Thomas Shafee, Link)
Google翻訳やDeepLの翻訳レベルも向上する中、一般人も多くの科学研究論文にアクセスできるようになりました。それゆえに「科学的根拠がある」「論文が出ている」とエビデンスを元に健康情報を発信する人々も激増しています。
今日は、論文を読む際に注意すべき「利益相反(conflict of interest:COI)」について解説します。
利益相反(conflict of interest:COI)とは
利益相反の説明を、2つのwebsiteから引用します。
学術集会におけるCOI 開示
利益相反とは 医学における利益相反(conflict of interest:COI)とは、科学的客観性の確保や患者ないし被験者の利益を保護するという研究者や研究機関の責任に,不当な影響を与え,重大なリスクを生じうるような利害の対立状況を指します。具体的には、企業等営利団体からの資金提供によって実施された医学研究の結果の判断が、資金提供元にとって有利あるいは不利になる可能性がある場合に、公正であるべき研究結果の判断に影響をもたらしかねないと第三者から見て懸念される状況を意味します。
Q3.
利益相反(COI)状態について説明してください
A3.
「医療薬学」誌で報告される研究成果には、各種疾患を対象とした薬物治療の効果・副作用、新規医薬品の評価などが数多く含まれており、その研究の推進には製薬企業等との共同研究、受託研究、奨学寄付金、寄付講座などが大きな基盤となっています。研究成果を社会へ還元するという公的利益の一方で、成果により研究者自身が得る金銭、知財等の私的利益が発生する場合があります。この公的利益と私的利益が研究者自身の中に生じる状態を、これら利益が矛盾しない場合であっても利益相反状態(COI状態)とよびます。医療薬学に論文を投稿される場合、著者全員の利益相反状態について自己申告を行って頂くこととなりました。
企業などの営利団体からの資金提供によって実施、発表された論文は、それを明示するというルールがあるのですね。
例えばファイザーのコロナワクチンの臨床試験は、ファイザー社の資金によって実施されます。ファイザー社はもちろん臨床試験を公正に行うことに努力しますが、自社商品が他社商品よりも有効性と安全性が高いことを証明したいがために、試験結果にバイアス(偏向)が発生してしまうかもしれませんよね。
コカコーラ社であれば、自社商品に使用する砂糖や異性化糖(果糖ブドウ糖液糖 / 高果糖コーンシロップ)が健康に悪くないという科学的エビデンスが欲しいですよね。そのため、砂糖や異性化糖の研究に資金提供をします。そのような研究は、やはり試験結果やレビューにバイアスが発生しているかもしれません。
利益相反を報告することにより、査読者を含む読者は研究論文の潜在的なバイアスを識別しやすくなります。利益相反の報告によって、公平で公正な評価が行われやすくなり、科学研究全体の透明性、信頼性、客観性が保たれています。
競合利益(competing interest)とは
利益相反は、競合利益(competing interest)という名前でも記載されます。
A conflict of interest can also be known as ‘competing interest’. A conflict of interest can occur when you, or your employer, or sponsor have a financial, commercial, legal, or professional relationship with other organizations, or with the people working with them, that could influence your research.
利益相反は「競合利益」とも呼ばれます。利益相反は、あなた、あなたの雇用主、またはスポンサーが、 他の組織やその関係者と金銭的、商業的、法的、または専門的な関 係を持ち、それがあなたの研究に影響を及ぼす可能性がある場合に 発生する可能性があります。
(Author Services – Supporting Taylor & Francis authors)
私は利益相反と競合利益の違いについての詳しいルールを把握しているわけではなく、有名学術誌websiteに記載されている情報をお伝えしていますが、nature portfolioのConpeting interestの解説を読んでも、Conflict of interestとほぼ同じ意味かなという印象です。
Conflict of Interestの方がより広い文脈で使用されることが多いのかもしれませんが、どちらも研究の透明性や信頼性に影響を及ぼす可能性のある利益相反を示すものであると覚えておきましょう。
謝辞(Acknowledgments)とは
利益相反とまでは言えない少額の謝礼や研究物資の支給、技術的支援、データ提供、助言などは謝辞(Acknowledgments)に記載されます。利益相反と競合利益は、研究結果の公正さと客観性に影響を与え得る関係性を指しますが、その範囲に入らないサポートは謝辞として記載されるみたいです。
「みたいです」というのは、私も利益相反&競合利益と謝辞の明確な境界線がよく分かっていないから。しかし利益相反と競合利益の方が、謝辞よりも強い意味合いで研究支援に関わっていることを示していることは確かだと思います。
その他、謝辞に近い意味合いで「経済支援(Financial Support)」という言葉で研究支援が記載されることもあります。
利益相反のチェック方法
具体的に、どのように利益相反をチェックするのか見ていきます。例えば以下の果糖に関するレビュー論文。
Luc Tappy, Leonie Egli, Virgile Lecoultre, Pascal Schneider
“Effects of fructose-containing caloric sweeteners on resting energy expenditure and energy efficiency: a review of human trials”
(安静時エネルギー消費とエネルギー効率に対するフルクトース含有カロリー甘味料の影響:人体試験のレビュー)
Nutr Metab (Lond). 2013 Aug 13;10(1):54.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23941499/
下方へスクロールしてリファレンス(参考文献)の手前に、競合利益と謝辞の記載があります。
4名の著者によって書かれた論文ですが、Luc Tappyはネスレ株式会社と味の素社から研究支援を受けており、競合利益に記載があります。Luc Tappyは第一著者(研究・論文執筆に最も多く貢献した著者)ですから、このレビューには潜在的なバイアスがあるかもしれません。
これは「果糖はブドウ糖よりもエネルギー効率が悪いから太らないぞ!」と無理やり果糖の非有害性を主張する奇妙な論文なのですが、砂糖を大量に使用して自社商品を製造するネスレと味の素が支援する著者によるレビューだと分かれば、より客観的に論文を読むことができます。
企業が研究支援しているからといって、その研究に客観性や妥当性が無いわけではありません。ファイザーのコロナワクチンも、オミクロンへの変異がなければ今のような論争は起こらなかったでしょう。ネスレと味の素が研究支援している研究論文も、果糖がブドウ糖と比較してDIT(食事誘発性熱発生)を増加させやすいという重要な見解をまとめており、果糖が生物に及ぼすメカニズムを追求することに役立っています。
利益相反や競合利益を明記することにより、読者は潜在的バイアスを認識できるし、著者と支援企業は責任を持つことができるのがメリットです。
透明性のある科学論文、大嘘で悪用する一般健康情報
Luc Tappyらの論文は、『自然治癒はハチミツから』のエビデンスとして引用されています。
43ページにこのような記述があります。
”ハチミツのフルクトースを中性脂肪に変換するのは 30%もエネルギーロスになります[81]。したがって、よほどエネルギーがあり余ってかつ余剰のフルクトースがない限りはフルクトースをわざわざ中性脂肪に変換することはしません。フルクトースが中性脂肪になるのは、超マイナー経路ということです。”
この[81]がLuc Tappyらの論文です。原著を読めば、果糖はブドウ糖よりもエネルギー効率が悪いから太らないという話なのですが、崎谷博征は「果糖は脂肪にならない」ことだけを強調しており、著書全体として果糖がブドウ糖と比較してエネルギー産生を活性化させるかのような誤情報を与えています。これが一般情報のタチの悪いところです。
査読を経て学術誌に掲載される論文には、明らかに事実と異なるような論理や解釈が掲載されることは稀ですし、利益相反と競合利益の明記もありますから、透明性が保持され、読み手には一定の客観性が保たれます。しかし非専門家に向けた書籍、セミナー、ネット情報などは、著者(情報発信者)の都合の良いように論文が使われ放題です。
現代、あらゆる人達が「科学的エビデンス」を掲げて情報発信をしていますが、ひとつの論文だけで全てが判明しているかのようなファンタジーレベルの誤情報を流したり、利益相反と競合利益がある論文だと読み手に知らせず都合良く利用したりと、科学を悪用するマナーのない行動も激増している現状です。
「科学的エビデンスがある」だけで正しいなど、とても言えません。どんなことでも本当のエビデンスを知りたければ、多数の原著論文を全文読む必要があります。
そして論文を読む際には利益相反もチェックする必要があるという解説を今日の記事ではしています。
利益相反のチェックはやはり重要
利益相反、競合利益のチェックはとても重要です。それが分かる一例をご紹介します。
Sam Z Sun, Mark W Empie
“Fructose metabolism in humans – what isotopic tracer studies tell us”
(人間のフルクトース代謝 – 同位体トレーサー研究が教えてくれること)
Nutr Metab (Lond). 2012 Oct 2;9(1):89.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3533803/
この論文も先の論文と同様に、果糖を肯定的に分析する論文です。
著者らは異性化糖を製造するADM(世界200カ国以上で事業展開する多国籍企業)にフルタイムで雇用されていると書かれています。
著者のSam Z SunとMark W Empieの書いた論文を調べてみると、検索上位4つは果糖を肯定的に分析する論文で、5つ目は亜麻仁抽出物の健康効果を示すRCT論文でした。
ADMは果糖含有飲料だけでなく亜麻仁油製造販売で世界的に有名な企業です。となるとまあ、この2人の論文書きは「企業PRの一環」ですよね。PRでも論文が示す情報が正しければなんら問題はありませんが、やはりそういうわけにもいかないようです。
彼らの書いた論文内から図を抜粋しました。「主要な代謝経路と食事性グルコースおよびフルクトースの流動」と題された代謝経路図ですが、これ間違いがあるんですね。「普通こんなこと間違えんやろ」という、本当に基本的なことを間違えています。
なぜこんなミスを犯すのか、、、想像できる理由があるんです。果糖を良いもの(悪くないもの)として論文を書く努力をしているので、それが出ちゃったのかなと。
図からは肝臓内のブドウ糖と果糖の代謝を書いているのだろうと予測できますが、もし肝臓内の代謝ということならば、間違いは1つではなく複数あります。
論文として出版されたものが、必ずしも正しい情報とは限らないこと。利益相反(競合利益)があると、間違いを犯しやすいかもしれないと、覚えておいてください。
『自然治癒はハチミツから』は多国籍企業支援の研究論文に支えらている
ここで少し話は変わりますが、陰謀論にほんの少しでも影響を受けている方々にとって、とても重要な話をします。
崎谷博征と有馬ようこ(代替医療師vanilla)は、当人らは否定するかもしれませんが、世間一般からすると生粋の陰謀論者です。
ハチミツの果糖は激推し、白砂糖も健康食品と流布する一方で、異性化糖(果糖ブドウ糖液糖 / HFCS)入りの加工食品や清涼飲料水などは毒性物質であり、人口削減計画に利用されている、くらいのノリで情報発信しています。
『「砂糖悪玉説」をなぜ流布し続けるのか?〜俯瞰シリーズ』ドクター・ヒロのリアルサイエンス2023-04-26
ところが、彼らが共著した『自然治癒はハチミツから』に利用されるエビデンス論文は、ペプシコやADMのような異性化糖や清涼飲料水を大量に製造販売する企業が研究支援をしていたり、企業に雇用されている著者が書いた論文が非常に多いのですね。
特に「第2章 ハチミツの実力はフルクトースにあり!」に掲載される図と表は、ほとんどそのような論文からの引用です。
以下、崎谷博征と有馬ようこの犯罪レベルな不正と共に、図説でご確認ください……
42ページ掲載の[図5]の表は、シードオイルや異性化糖の製造販売を世界200ヵ国以上で展開する多国籍企業であるアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)にフルタイム勤務する社員(Sam Z SunとMark W Empie)が書いたものです。
「Theリアル質問道場」の申し込みページでも解説しましたが、崎谷博征はこの原著論文に根拠のない改変を注釈も入れずに加えています。
ADMは崎谷博征と有馬ようこからすると間違いなく人口削減計画に加担している悪の組織でしょうが(笑)、その悪の組織のADM社員が書いた異性化糖を肯定できるように書いた論文を、さらにハチミツが売れるように改変して悪用する崎谷博征&有馬ようこ。
本当の悪は、一体どちらでしょうか……ブラックジョークもほどほどにしていただきたいものです。
ADM社員の書いた論文は、きちんと競合利益の宣言があるので、読み手は潜在的バイアスを認識して読むことができます。だから大きな問題にはなりません。
しかし『自然治癒はハチミツから』は、根拠に基づかない数値を勝手に入れ、あたかも科学的エビデンスがあるように見せかけています。これは詐欺であり、倫理的に問題があります。そして著作権法違反(犯罪)です。
80ページ記載の[図19]もADM社員による同一論文内からの転載です。こちらは原著で誤った代謝経路図を作成してしまっているのが問題です。企業PRが主目的になっているからか、先ほどの図も、この図もいい加減さが目立ちます。このような問題を認識するためにも、やはり競合利益の宣言は非常に重要です。
そして崎谷博征はこの図に論文アドレスを掲載しておらず、著作権侵害をしています。さらに代謝経路の間違いに気づいていません。
40ページ記載の[図4]は、食品メーカーとして2020年世界第一位のネスレ、世界第2位のペプシコの一部門であるゲータレードスポーツ科学研究所、日本の食料品メーカー売上高トップ5に入る味の素から講演料を受け取っているLuc Tappyの論文からの引用です。Soremartec Italia S.R.L.はイタリアのフェレロというチョコレート菓子製造で有名な多国籍企業のグループ会社です。
これを引用元の記載なしの著作権侵害を、崎谷博征と有馬ようこは行なっています。
94ページ記載[図23]も、Luc Tappy氏の同一論文より。同様に、引用元なしの著作権侵害です。
65ページの[図16]は、Luc Tappy氏の別の論文からの引用ですが………….著作権侵害に加えて、めちゃくちゃ悪質な改変を行なって掲載しています。
これは別記事で解説する予定です、、、崎谷博征と有馬ようこの行なっていることは、詐欺と犯罪です。
加えて、彼らは著者のLuc Tappy氏の研究成果に対する敬意が全くないことを、私は強く批判します。運動中の果糖代謝について非常に分かりやすくまとまったレビューを多数残しており、果糖についての理解にTappy氏は大きな貢献をしています。このような良質な研究成果をもとに、徐々に私たちはメカニズムの本質を掴むことができています。その積み重ねに敬意を持てないのは、科学や生命のメカニズムを愛していなからとしか思えません。
61ページ掲載の[図13]は、ペプシコのコンサルタントを務めるJavier T GonzalezとJames A Bettsによる論文からの引用です。Bettsはライビーナという清涼飲料水を販売するLucozade Ribena Suntoryのコンサルタントも務めています。
こちらも図、解説文ともに注釈もなく勝手に改変するという著作権違法を行なっています。
81ページ記載の[図18]は、Vijayalakshmi Varma, Jim Kaputらの論文からの引用です。Kaputはこの研究の最終著者(一般的に指導教授、研究室のリーダー、管理者)として名を連ねますが、ネスレに雇用されています。
この論文は果糖の危険性を主張するものです。ネスレに雇用されている人物が最終著者として研究に指示を出しているとしたら、みなさん意外に思われるかもしれません。これには理由があり、ネスレは2016年に自社製アイスクリーム商品から異性化糖を除去し、砂糖を11%減らすと発表しています(この論文は2015年に出版されています)。
参照 – ネスレ、よりシンプルな原材料への移行でアイスクリームの水準を引き上げる(ネスレUSA)
ここでも崎谷博征と有馬ようこは本当に悪質な詐欺を行っています。繰り返しますが、この論文は果糖の危険性を主張するものです。脂肪細胞を果糖と共に培養すると、果糖が糖のエネルギー産生を低下させるという結果が出ています。もう一度言います。果糖が糖のエネルギー産生を低下させています。
崎谷バニラ理論を学んでいる方にお伝えします。「ランドル・サイクルで見られるのと同様に、果糖が競合的に糖のエネルギー代謝を阻害する」と記載されています。もう一度言います。「ランドル・サイクルで見られるのと同様に、果糖が競合的に糖のエネルギー代謝を阻害する」です。
その論文に掲載されるデータの一部を切り取って、「フルクトースは糖のエネルギー代謝を高める」と真逆の説明を添えて崎谷博征と有馬ようこは利用しています。
乳酸が爆上がりしている図は隠蔽。明確に詐欺です。原著にはCO2産生が増加したメカニズムをきちんと明記していますし、果糖が糖のエネルギー産生を障害すると結論付けています。
ここまで紹介した『自然治癒はハチミツから』に掲載される8つの図は、すべて引用元を記載しない著作権侵害と、注釈も根拠もなく改変して掲載する著作権違法に該当します。呆れるほかありません。多国籍企業が支援する研究を悪用しながら、自分自身は悪の組織に立ち向かうヒーローであるかのように振る舞うのですから。まさに盲目的な「自己愛過剰(ナルシシズム)」です。
崎谷博征は本当に生化学を理解していない
前回は崎谷博征と臨床栄養医学協会の小笹れんはなぜ堂々と盗作を行うのかについて見解を説明しました。
今回改めて浮かび上がるのは、なぜ論文の主張と真逆の見解を、それが科学的に間違っているにも関わらず、堂々と崎谷博征は主張するのだろうという疑問です。
しばし考えて、ひとつの結論に辿りつきました。おそらく、彼は生化学を本当に理解していません。生化学を理解していて、ここまでの間違いを犯すことはまず不可能です。
しかしこのことは、生化学をきちんと理解している人以外は判別がつきません。
医者が生化学を理解していると一般人は考えると思いますが、ほとんどの医者は生化学など理解していません。生化学を理解しているのは、研究者のみでしょう。それほど生化学は難しいのです。
Vijayalakshmi Varma, Jim Kaput et al.
“Fructose Alters Intermediary Metabolism of Glucose in Human Adipocytes and Diverts Glucose to Serine Oxidation in the One-Carbon Cycle Energy Producing Pathway”
(フルクトースはヒトの脂肪細胞におけるグルコースの中間代謝を変化させ、一炭素循環エネルギー生成経路においてグルコースをセリン酸化に誘導します)
Metabolites. 2015 Jun 16;5(2):364-85.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4495377/
これは崎谷博征が真逆の結論を堂々と伝えた先の論文ですが、翻訳して読んでみてください。私のブログ読者さんに、すべてを理解できる人はゼロでしょう。素人だけの話ではなく、おそらく日本の医療従事者の95%以上*、この論文を理解できないか、結論だけは理解できても、応用的に他の論文と繋げて意見を出せないでしょう。
それほど生化学は難しいのです。だからこそ「パクリ」の「結論ありきのエビデンス探し」で論文を読んだところで、全く理解できないのです。
(*「おそらく日本の医療従事者の95%以上」は控えめな見積もりであり、現実は99%以上だと推測されます)
大企業が資金提供する研究だからと言ってウソではない
さて、本日のまとめに入ります。
ネスレやペプシコのような巨大な多国籍企業が研究支援をしている論文は、当然ながら、自社商品の有益性や非有害性を研究から導き出したいと願います。砂糖や異性化糖の影響を調べる研究においては、肯定的な見解を出している研究は、企業が資金提供していたり、著者が雇用されているケースが非常に多くなります。
だからといって、その研究論文は決して嘘ばかりではありません。陰謀論に影響される人々は、製薬や食品の多国籍企業が研究支援している論文は捏造だらけであるかのような錯覚を持つ人が少なくありません。代謝経路図を間違えて掲載するADM社員の論文はやや問題がありますが、Luc Tappy(ネスレ、ペプシコ、味の素から研究支援を受けている)やJim Kaput(ネスレに雇用されている)らの研究は明らかに科学の進歩に貢献するものです。それまでに出版されてきた利益相反のない他の研究結果とも、彼らが導き出している見解やメカニズムは矛盾しません。
ネスレにおいては、果糖の危険性が明確になってきた事実を受け止め、異性化糖を他の甘味料に置き換え、砂糖の使用量を減らすという方向性の転換を行なっています(代わりに人工甘味料を使用しますが、それが健康に良いかどうかはさておきです)。
まっとうな学術誌に掲載される論文、大企業が研究支援する論文に「大嘘」が書かれる確率は限りなく低いです。研究者が査読した上で掲載され、その後も他の研究者が監視し、不正があれば撤回されます。この監視・チェックシステムが100%完璧に機能していることはありませんが、少なくとも一般書や一般健康情報よりも遥かにまともなことが書かれています。
繰り返しますが、学術誌に掲載される論文は、利益相反、競合利益の宣言があることで、潜在的バイアスを認識して読むことができます。また研究者はひとつの論文だけで物事を判断しません。総合的に判断し、常に見解のアップデートを試みています。総合的に、極めてまっとうな世界が学術界の中にはあります。
それよりも危険のは健康に関する一般書やネット情報です。「科学的エビデンスがある」と多くの方が口を揃えて言うようになりましたが、決定的なエビデンスは疫学研究論文ではなく、生化学の理解力が求められる基礎研究論文を読まなくては確認できません。基礎研究論文とは、先のKaputらの細胞実験研究のような、メカニズムを追求する研究論文です。あれを理解できない人は、生化学的に体の仕組み(メカニズム)を理解しているとは言えません。
しかしプロアマ問わず情報発信者のほとんどは、生化学を理解しておらず、基礎研究論文を読む事ができないにも関わらず、あたかもすべてを知っているかのようにSNSで情報を垂れ流して広告収入を得たり、セミナーを販売したり、その情報を元に商品を売りまくっているのが現状です。
『自然治癒はハチミツから』には現時点で160個ものレビューがついており、低評価は全体の4%のみです。何度も増刷され、蜂蜜販売の代理店も相当数存在します。ところがこうして書籍のエビデンスの妥当性を見てみれば、本当に馬鹿げたレベルで妥当性がないことは、火を見るよりも明らかです。
『現代医学の後出しジャンケン〜俯瞰シリーズ』(崎谷博征ブログ 2023-12-20)
崎谷博征の最近のブログには、こう書かれています。
”最近では、翻訳機能も充実し、英語を読めない人でも気軽に英文の論文検索をすることができるようになりました。新しい論文を紹介するのは良いのですが、論文を読むときに留意すべき点があります。過去記事の『悪質な砂糖悪玉説を撃退する』でお伝えしたように、論文の著者が論文の内容に関わるような製薬会社、バイオ産業や医療機器会社(あるいはそれらと回転ドアの関係にある国立衛生研究所(NIH))との利益関係(賄賂(わいろ)のことです、利益相反という)にあることを報告しているかどうかです。”
まず利益相反状態は賄賂とは全く異なる関係性ですし、どの口が言うねん!!!と言う話です。
『自然治癒はハチミツから』に記載される理論は、ほぼ利益相反状態の論文のみで構成されています。
巨大多国籍企業が資金提供する論文を、ハチミツとセミナーを売るために著作権侵害で悪用しまくっているのは誰なんだと(笑)
利益相反/競合利益を宣言し、大嘘を書かないLuc TappyとADM社員の方が遥かにまともであることは言うまでもありません。
利益相反、競合利益状態にあると、確かに潜在的バイアスが発生しやすくなります。しかし論文にはきちんと宣言がありますし、崎谷博征と有馬ようこの著書のような嘘八百は書かれていません。そんなことは出来ないのです。全世界の専門家が監視していますから。
引き換えに、たとえば崎谷博征の著書を監視し、科学的根拠をもとに、きちんと彼らの実名で指摘し、自身の実名を出して批判しているのは私のみです。私のような存在が他にいないので、代替医療系の情報発信者はやりたい放題です。一方で、現代医療やメインストリームの科学の世界は、ある一定の秩序が保たれています。
今回の記事では以下のことを伝えています。
- 利益相反、競合利益は潜在的バイアスを認識するために重要。
- しかし企業が資金提供していても科学の発展や人々の健康のために有益な論文は山ほどある。そして利益相反状態は論文に宣言されている。
- 逆に反現代医療、代替医療的な立場の人々が発信する情報は科学的根拠や利益相反関係が不透明なケースがほとんど。
- どちらが危険で嘘の多い情報であるかは、火を見るよりも明らかである。
色々話が膨らみましたが、知らなくてはならないとても大事なことをまとめました。
Theリアル質問道場の生化学クイズについて
今回の記事をアップした経緯なのですが、私は「Theリアル質問道場」セミナー資料内に、正解者先着1名にはエネルギー代謝学全7回受講料を1万円割引!として生化学クイズを出しました。
それは、下画像左の『自然治癒はハチミツから』に掲載される「肝臓内でのグルコース(ブドウ糖)フルクトース(果糖)の代謝」の図から、「代謝経路の間違いを3つ、酵素名の間違いを1つを指摘してください」というクイズでした。
この図には誤りがあります。引用元が記載されておらず、いい加減な図だったので、私は崎谷博征の自作だと考えました。「崎谷は果糖の有益性を主張をしたいがために間違ってしまったのではないか?」と思ったのです。
ところが果糖に関する論文をまとめていたところ、先日引用元を発見しました。
すると、こちらも果糖の有益性を主張したい、アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドのフルタイム社員が書いたものだったことが判明(笑)
この煮え切らない意図が不透明な図は一体なんなのかと不思議だったのですが、納得しました。
しかし崎谷博征&有馬ようこが最強の毒性物質と設定しているオメガ3が豊富なアマニ油と異性化糖を製造する、世界トップクラスの多国籍企業であるADM社員の書いた論文を、さらに自分達に都合が良いように改変して書籍に掲載するなんて、なかなかクレイジーですよね?(爆笑)しかも引用元掲載なしの著作権侵害で。
何が間違っているのかはクイズ回答受付中なので書けませんが、クイズに変更はありません。崎谷博征が書いたように「肝臓内での(←ここ重要です)代謝」だとして、間違いを指摘してください。「全身循環」と書かれているところ以外は、全て肝臓だと考えてください。
現時点でエントリー確定した受講者数は25名様で、そのうちTheリアル質問道場にご参加頂いた方は17名様おられたのですが、クイズ挑戦者は1名のみでした。1万円割引は先着1名様です。エネルギー代謝学受講をご検討くださっている方は、ぜひお申し込み時に回答をご記入ください。
今回、崎谷博征は実は生化学をあまり理解していないだろうと説明しました。他の「生化学を売りにしている」一般向けセミナーや講師も同じようなものです。
臨床栄養医学協会の小笹れんの生化学の理解力は、崎谷博征をパクっているので、崎谷博征以下です。パクリというのは、自分より上のレベルの人間に対して行うものです。
生化学に基づく正しい知識を伝えると大嘘の宣伝をするこの協会の講師認定コースは38万5千円にオプションで5万円追加というブラックジョークのような話です。
生化学的な栄養の理解を促すセミナーとして有名な分子栄養学実践講座ですが、講師のまごめじゅんが生化学を理解しているとは、とても思えません。
詳しくはブログへ、、、と言いたいところですが、最近何度も書いている通り、生化学を理解している人でなければ、記事内容を判別できないと思います。
私の記事にキレた吉富信長(同じく分子栄養学実践講座の講師)も、論理的反論をせずにただの人格否定と誹謗中傷に終始していたので、生化学を理解しているとはとても言えないでしょう。理解していれば、具体的に反論した方が美しくスマートだということは、誰でもわかる話です。
分子栄養学実践講座の認定コースは早期割引で16万5千円とのこと。
ただ、吉冨氏もまごめ氏も、小笹よりはマシです。臨床栄養医学協会は本物の詐欺ですね。認定講師資格を40万以上出して取得した人間は、正真正銘の間抜けだと思います。
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