ちょこちょこ要望もあったりするんで、そろそろこの話をしていきます。
『自然治癒はハチミツから ハニー・フルクトースの実力』 – 﨑谷博征 (著), 有馬ようこ (著)
フルクトース(果糖)こそエネルギー代謝を高めると主張し「毎日ハチミツを最低大さじ6〜8摂取」を提唱。
これはなかなかインパクトがありますよ。
非常にセンセーショナル(←日々退屈している人々の大好物)。
ハチミツ大さじ1杯は21グラムなので、大さじ8杯だと168グラム。
栄養素はほぼ糖質のみ。カロリーは553kcal。
棒グラフでチェックしてみましょう。
(カロリーSlismで計算&画像引用)
毎日大さじ8杯ものハチミツを摂取するということが、かなりアグレッシヴでエキセントリックな行為だと分かります。若い女性が1日に必要なカロリーは1800kcalと記載がありますが、なんとそのうちの30パーセント以上をハチミツから摂取することになります。
これで栄養足りるのかと不安になりますね。
ビタミンやミネラルもチェックしましょう。
これはヤバイくらい不足しそうです。
では多くの日本人の主食、白米ごはんと比較してみます。
精製された白米ごはんは栄養に乏しいのですが、それでもいくらかのタンパク質を摂取できます。ハチミツと比較すれば18倍ほど。
ビタミンとミネラルはどうでしょうか?
白米ですからバッチリ!とは言い難いものですが、ハチミツとの比較であれば、より多くのミネラルを含みます。
では、小松菜などの葉野菜や大根葉を混ぜて炊いた「菜飯」をチェックしてみましょう。
炭水化物が少し減り、タンパク質はさらに増えました。
では気になるビタミン&ミネラルは?
ただの菜飯も、ハチミツの低いビタミン&ミネラルと比較すると、神レベルに見えてきます。ちなみに青菜は、崎谷博征と有馬ようこに言わせると、危険なオメガ3が含まれ、甲状腺機能を落とすので禁忌食品です(笑)。
ということで。
高級ハチミツなんて聞くと、イメージで「栄養入ってそう!」と感じてしまう人もいるかと思います。しかし事実は、白米と菜葉という非常に栄養素に欠けてそうな食品よりも、ハチミツの方が圧倒的にたんぱく質、ビタミン、ミネラルが少ないのですね。
これだけ栄養素(ビタミン、ミネラル、たんぱく質)が少ないのに、主食のようにハチミツを健康のために食えと。1日「最低」大さじ6〜8杯摂取を推奨ですからね。書籍には栄養についてどう書いてあるか、見てみましょう。
(自然治癒はハチミツから / p.26より引用)
「ビタミンやミネラルが含まれるために、糖のエネルギー代謝を回すには最適な食材」なんだとか。生化学どころか基礎栄養学すら理解していない気がしてきます。こんな微量のビタミン&ミネラルでは、糖質は解糖系からTCA回路へ入れず、入ってもTCA回路は回らず、エネルギー不足を起こすでしょう。
そもそもの話、その栄養価の表は原著論文内の「表2」から引用したものなのですが…
【原著論文】
Stefan Bogdanov et al.
“Honey for nutrition and health: a review”
(栄養と健康のための蜂蜜:レビュー)
J Am Coll Nutr. 2008 Dec;27(6):677-89.
という文章に「表2」が添えられています。「蜂蜜のビタミンとミネラルの量は少ないよ」という意味で論文内に添えられた表を、なぜか「ビタミンとミネラルが含まれるため糖のエネルギー代謝をまわすために最適」に言い換えるという、摩訶不思議なことを崎谷博征はしています。
いくらハチミツを売るためのご商売といえども、論文内容と客観的事実とも異なる内容を「リアルサイエンス」と嘘をついて情報販売するのは、いかがなものでしょうね。
Honeydew(HOLISTETIQUE正規蜂蜜代理店)
彼らはセミナーで「自社商品以外は汚染の危険性がある」という物言いで、自分らの販売するハチミツやサプリメントを宣伝しているのですが、ハチミツ1kgは最低価格の商品でも8000円。毎日大さじ8杯食べると、6日で無くなります。はちみつだけで、1日最低1333円かかる(笑)。
健康の心配のほかに、お財布の心配も増えそうですね。
お前、なんでハチミツにこんな金使ってんだ!とか、夫婦喧嘩も起こりそう(笑)
毒か薬かは量と期間が決める
ハチミツは、使い方によっては体調改善に役立ちます。昨年末は、1日大さじ2杯のハチミツ摂取が血糖値やコレステロール値などが改善するという研究報告が発表され、話題となりました。
甘いハチミツが血糖やコレステロールを下げる ハチミツは糖尿病の人にも勧められる?(糖尿病ネットワーク / 2022年12月08日)
【原著論文】
Amna Ahmed et al.
“Effect of honey on cardiometabolic risk factors: a systematic review and meta-analysis”
(心臓代謝の危険因子に対する蜂蜜の影響:体系的レビューとメタ分析)
Nutr Rev. 2023 Jun 9;81(7):758-774.
計1,100人以上が参加したヒトを対象とした比較臨床試験で、追跡期間は1~24週間 (中央値は8 週間)。
しかし大さじ8杯は、大さじ2杯の4倍です。パラケルススが言ったように、毒となるか、薬となるかは量が決めます。
付け加えると、毒となるか薬となるかは「期間」も決めます。発熱して辛く耐えられない時、解熱鎮痛剤を服用して楽になれば、それは文字通りの「薬」となります。しかし、もう発熱しないようにと、発熱予防に解熱鎮痛剤を毎日服用する人はいません。そんなことをしたら、その解熱鎮痛剤は「毒」になります。
大さじ2杯のハチミツを平均8週間(←2ヶ月ですよ!)の服用で心血管に良さそうだという報告が出ましたが、毎日大さじ8杯を何年も続けようものなら、確実に毒になります。
その最たる理由は彼らの推奨する「果糖と単糖の大量摂取」となりますが、今日は栄養の話です。なぜハチミツには栄養が少ないのか? 生物的な視点から理解して、今回は締めくくることにしましょう。
ハチミツに栄養が少ないのは当たり前
以下は、白米ごはんお茶碗1杯分と、お茶碗1杯分と同じカロリーのハチミツ、白砂糖、黒糖のビタミンとミネラル+タンパク質の栄養素です。
前途の通り、ハチミツのビタミンとミネラルは少なく、白砂糖は一般的な認識通りに最も少なく、黒糖はとても多いです。
黒糖の栄養価の高さに驚いた人もいるのではないでしょうか?白米ごはんと比較して、リン、亜鉛、マンガン、タンパク質以外の全ての栄養素が優っています。
この理由をひと言で説明すると、黒糖は生物そのものだから、ということになります。サトウキビを絞って煮詰めたものが黒糖であり、白砂糖のように糖以外の成分が精製されていません。マクロビオティックでいうところの「一物全体」に近いニュアンスです。
生物は、細胞でエネルギーを生み出して、生命を維持します。どんな生物であっても、多細胞の真核生物である限り、豊富なビタミン、ミネラル、タンパク質を含んでいます。細胞内でビタミンとミネラルを利用して代謝を行いますし、タンパク質は細胞の主要な構成成分だからです。
精製すると栄養素は減ります。だから白米より玄米、白砂糖より黒砂糖の方が、圧倒的に栄養価が高くなります。もちろん栄養価が全て吸収されるわけではなく、ビタミンやミネラルの量だけで良し悪しは決められませんが、とりあえず栄養価は一物全体的なほうが高くなります。
ではハチミツはというと、花の蜜を蜂が巣の中で加工したものです。花蜜は細胞を持たず、代謝を行いません。従って、蜂を誘引するためにたっぷりの甘い糖は含んでいても、ビタミン、ミネラル、タンパク質は、生物そのものと比較して少なくなります。
黒糖の原料となるサトウキビの髄は柔細胞で構成され、代謝を行なっています。だから花蜜よりも多くのビタミンとミネラルを持っていて当然なのです。
生物そのものではないのに非常に高い栄養素を含むものもあります。それは「乳」です(厳密には少量の白血球を含みます)。これは「それは何のためにあるのか」で考えてみましょう。
乳腺は、自分の子供のためだけに、必要な栄養素を確実に与えるために、生物の進化の過程で生まれました。人間なら、人間の体内で合成され、人間の子に与えられ、人間の子が育つために必要な栄養素を含んでいます。小さなミツバチ(昆虫)を誘引するためのものと、大きな動物(哺乳類)を養うためのものでは、栄養素の量が大きく異なって当然です。
人間は大量の糖蜜を摂取することに適した生物か?
次は「ハチミツは人間(哺乳類)が大量に食べることに適しているのか?」という視点で考察します。
花とミツバチは共生しています。花はミツバチに食料(花蜜と花粉)を与え、ミツバチは花の受粉を手伝います。この共生関係の中で、もちろんミツバチにとって花蜜と花粉は生命を維持するために最適な栄養素を含んでいます。
ミツバチの食料は花蜜と花粉のみと言われますが、あらためて考えると、甘い蜜をこんなに大量に摂取する生物は非常にレアです。
花蜜に限らず、樹液も含めて甘い液体に飛びつく生物はどんなものがいるかというと……
アリですね。これはメープルシロップ、ハチミツ、砂糖水のうちアリはどれを好むか実験した面白い動画です。1位はメープルシロップ、2位ハチミツ、3位砂糖水の結果となりましたが、興味深いことに、これは栄養価の高い順となっています。
カブトムシの主食は樹液です。下の動画では、同じく樹液を主食とするスズメバチの成虫と激しいバトルを繰り広げています。
まあこんな感じで、糖蜜を主食とするのは「昆虫」なんですね。
そして大量に糖蜜を摂取する「哺乳類」って、調べた限りでは一部のコウモリくらいみたいです。
プーさんはフィクションですからね(笑)
クマは雑食性でハチミツも好んで食べますが、蜂の巣を狙う本命の理由は蜂の子(幼虫)を食べるためだと言われます。
やたらと大量の糖蜜を摂取する生物種は、どうも昆虫がメインっぽいです。
人間は果糖(フルクトース)を摂取しても、大量に摂取しない限りは小腸と肝臓ですべて代謝してしまい、全身を循環させません。ところがミツバチの成虫は巣の中のハチミツを食べ出してからは、なんと血中に多量の果糖を循環させているようです。
そして果糖を飛翔筋細胞へ送り込み、エネルギー産生しているのだとか。
ミツバチは、大量の果糖に適応する代謝システムを持っているのですね。繰り返しますが、人間の身体は果糖を血中に循環させないように制御されています。人体で最も大量に糖を使うのは骨格筋ですが、人間はミツバチと異なり、筋肉に果糖を直接送り込むことをしません。
生物の視点を持てれば騙されない
今回はそろそろこの辺で締めくくりますが。
オメガ3を多量に含む生物は魚類だけど、私たち人間がサプリや植物油として大量に摂取しても良いのかな〜?
とか、
糖蜜を大量に摂取する生物は昆虫だけど、私たち人間が大量のハチミツを摂取しても大丈夫なのかな〜?
などなど。
生物を視点におくと、安心安全な判断が出来ます。
「短期間の治療」という意味であれば、大量のオメガ3も果糖も、効果が得られるかもしれません。実際、オメガ3に関しては肯定的な論文が多々存在するでしょう。
でも「長期間やるとヤバくね?」という視点が、生物から俯瞰することで得られるのですね。薬と毒は表裏一体です。
『ハチミツ自然療法の最前線 ポスト総ワクチン接種時代の処方箋』 – 崎谷博征 (著), 有馬ようこ (著)
さて2019年の『自然治癒はハチミツから』の続編として2021年にも新たにハチミツ本を出版している彼らですが、相変わらずの様子です。
このページは有馬ようこが作成したもののようですが、まあちょっと恣意的なものを感じますよね。「含む」と書いてあるだけで、「これだけ食べれば1日必要量を満たせる」とか、明確な記述ではありません。
2019年の書籍には、ビタミンB群のうちB1はほぼ含まれていないことを示す表を彼らは掲載しているわけで。
ハチミツ100g中、四捨五入で0.0になってしまうほど極微量しか含まれていないか(つまりゼロ)、最大でも0.01mgしか入っていません。
※厚労省はB1を1日に0.9〜1.5mg摂取することを推奨しています。
だから、栄養計算サイト(出典:厚労省)だとビタミンB1が入ってないことになっています。
もう一度、同じカロリーの菜飯の栄養素を掲載しますので、ハチミツを主食のように食べ、青菜を警戒していた人は、ここで立ち止まってください(笑)
はい、じゃあ黄色い方の本に戻ります。今気がついたのですが、「おわりに」にとんでもないことが書いてありました。
ハチミツの健康増進効果は、糖と一緒にビタミンとミネラルが詰まっていることなんだと(笑)
最後の最後にこれ書いちゃうくらいですから、本当にそう信じているのでしょう。もはや自分の望むようにしかデータや文献を解釈できない思考状態に陥っているように見えますが、これが「リアル・サイエンス」か否かは、小学生でも分かる話かと思います。
崎谷博征&有馬ようこ著の書籍には、あらゆるところに事実とそぐわない恣意的なイメージづけが大量に含まれています。一般大衆は事実を確認しようとしませんから、「ハチミツは糖のエネルギー代謝を回すのに最適です!」の力強い言葉と、あたかも大量の科学論文から導き出された答えだと思わせるための大量のリファレンスを掲載しておけば、洗脳には事足ります。
そろそろハチミツ大量喰いで全然効果が上がらない人も増えてきたところでしょうから、4年ぶりにセミナーやります。『自然治癒はハチミツから』に掲載される情報を、参加者から事前に質問を受け付け、該当するエビデンス原著論文を私が読み、皆さんに事実をお伝えするセミナーです。
私は崎谷博征本人から「私の理論を最も理解している人間」と称された人間ですから、ぜひ安心してご参加ください(笑)実験的なセミナーですが、きっと面白いと思いますよ。
生化学をガッツリ基礎から勉強したい方は、来年のエネルギー代謝学セミナー2024でお待ちしております。
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〜黒糖について〜
正直なところ「センセーショナルなタイトルと文章にし過ぎた」と反省している過去記事です。
ショ糖の大量摂取は長期間ずっと続けるものではないことを念頭においてお読みください。
あくまで短期間の治療法としてしか機能しませんし、逆に言えば、短期間の治療法としてなら機能することがあります。