今日の記事は、有機農業と慣行農業はどちらが環境に優しいのか?を、論文研究をもとに検証しています。
—目次—
- 農家がファクトを発信する時代らしい
- 有機栽培の野菜は環境に優しくないって?
- SITO.ブログのファクトチェック開始
- ハイライト:LCAの手法がバラバラなため結論を出すのは困難
- 要約:有機栽培の環境負荷が低いと強調
- 重量単位でも面積単位でも有機農業の環境負荷は低い
- 無自覚に著作権侵害を犯すSITO.
- 野菜類のO:C比を重量と面積で比較
- 1つの研究結果が全体に影響を与えている
- 野菜の分析には日本の研究が1つしか含まれない
- Boschieroら(2023)結論の要点
- 強い信条が誤読を招く
- 農家がハウスにネコを入れて炎上している件
- 匿名で誹謗中傷を楽しむ農家
農家がファクトを発信する時代らしい
私が「誰もが無自覚に陥るエコーチェンバーとフィルターバブル」を投稿した日の夜中にSITO.が投稿したのがコレ。
これは私のブログへの弱々しいアンサーなんですが、それは置いといて赤字の部分。
「これからは農家がファクトを発信する時代」と。
このポストについての反応は以下。
このポストにはSITO.は取説の免責事項と法律を本気で混同するような男だと教えてやりたいところですが、さておき次。
3つのポストをざっくり要約すると、「農家だからこそ正しい情報を知ってると思ってる」ってとこですね。
「餅は餅屋」はかなり誤解した意見です。
農家が農業のことを何でも知ってると思ったら大間違いで、それは他の職業でも同じです。
餅は餅屋であれば専門家に聞けば全ての疑問は解決するはずですが、そんな事はあり得ませんよね。
医療問題も、Xでは医者と研究者同士が日夜激論を交わしています。
ファクトチェックって簡単に言うようになりましたけど、実際はかなり難しいです。
取説も読めないクソボン農家が難しいファクトチェックを堂々発信すると宣言して、餅は餅屋なんて歓迎されちゃあ黙ってられませんね(笑)
ということで本日は「キャベツ農家SITO.が本当にファクトを検証できてんのか問題」を検証する記事をお送りします。
有機栽培の野菜は環境に優しくないって?
SITO.の最新ブログが検証題材としてちょうど良いです。
#68 【知識・検証】オーガニック給食を遠見して… 「環境にやさしい」ってなんだろう?(SITO. ブログ – あるのは探究心)
私のこの記事の価値は、彼のブログを先に読んでおくことでより理解できるようになりますので、お時間のある方は上記リンクに目を通してください。以下、SITO.作成のグラフを転載します。
横軸の左から順に13の環境負荷項目の指標が示されています。ボックス内の横線は中央値を示しており、それが点線より上に位置すると慣行農業の環境負荷が相対的に低いことを示し、下に位置すると逆に有機農業の環境負荷が低いことを示しています。
CC(Climate Change, 気候変動)
OD(Ozone Depletion, オゾン層破壊)
PO(Photochemical Ozone, 光化学オゾン)
PM(Particulate Matter, 微粒子状物質)
IR(Ionising Radiation, 電離放射線)
A(Acidification, 酸性化)
Eu(Eutrophication, 富栄養化)
Etox(Ecotoxicity, 生態毒性)
HT(Human Toxicity, 人体毒性)
Res(Resources Use, 資源使用)
Water(Water Use, 水使用)
Land(Land Use, 土地使用)
En(Energy Use, エネルギー使用)
縦軸はO:C比で、Organic(有機)とConventional(慣行)がもたらす環境負荷の比率を示しています。
比率が1を下回れば有機の方が環境に優しい、1を上回れば慣行の方が環境に優しいことを示します。
1のラインは、グラフ上を水平に伸びる点線です。
グラフに含まれるのはキャベツ、ニンジン、キュウリ、ナス、ネギ、レタス、タマネギ、トウガラシ、ホウレンソウ、トマト、スイカなどの野菜類のみです。
ということでSITO.作成グラフをもう一度見ると…
あれ?
ほとんど同程度の項目もありますが、慣行農業野菜の方が環境に優しいの??
という印象を受けるかもしれません。
多くの項目の中央値が、O:C比1のラインより上(慣行農業の環境負荷が相対的に低いことを示す)に位置しています。
実際、彼のブログにはこう書いてあります。
”全体で見ると有機:慣行=4:9の結果。統計的有意差のない6項目を除いても3:4という結果で、決してどちらかが明確に「環境にやさしい」とは言い切れないことが浮き彫りになりました。“
”特に野菜類の生産は短期間で行われるため、より臨機応変に施用できる化学肥料を使う慣行農業のアドバンテージが大きいことがわかります。”
有機農業と慣行農業の環境負荷には差がないとしながら、「数」を利用して「慣行農業のアドバンテージが大きい」と印象付けているようです。
彼の意図はXポストではより露骨に強調されています。
野菜の有機化は「環境にやさしくない」と。
これはかなりセンセーショナルな主張です。
日本において有機農業とは「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業」と定義されています。
農業全体として、有機農業は慣行農業より環境保全に貢献していることは常識的に認知されていますが、SITO.曰く、野菜に限っては逆であると。
そうなると疑問が湧くのが、このマークがついた野菜。
画像:オーガニック認証センター
有機JASの基準はコーデックス委員会のガイドラインに準拠し、同委員会は有機農業を「生物の多様性、生物的循環及び土壌の生物活性等、農業生態系の健全性を促進し強化する全体的な生産管理システムである」と定めています。
農水省も「有機農業=環境保全」と明確に打ち出しています(リンク)。
画像:株式会社マイファーム
いかにも環境に良さそうなシンボルが象徴する有機JAS認証野菜が「逆に環境に良くない」となると、本末転倒ですね。
SITO.ブログは本当に「ファクト」なのでしょうか?
SITO.ブログのファクトチェック開始
この時点で嘘くさいこと極まりないのですが、検証を開始します。
彼が紹介している論文はこれです。
Martina Boschiero et al.
Comparison of organic and conventional cropping systems: A systematic review of life cycle assessment studies
有機栽培と従来栽培システムの比較:ライフサイクルアセスメント研究の体系的レビュー
Environmental Impact Assessment Review Vol.102, Sep 2023, 107187
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0195925523001531
※以下「Boschieroら(2023)」と省略します
LCA(ライフサイクルアセスメント)とは「モノの一生を追いかけて、どこでどれだけ環境に影響を与えているのかを数値化する」という考え方です。
農業では、土づくり〜種まき〜収穫〜出荷の一連における温室効果ガス排出量や、エネルギー使用量を調べることになります。
これはシステマティック・レビューなので、2023年までに出版された77論文データが統合・分析され、包括的な評論がなされています。
ハイライト:LCAの手法がバラバラなため結論を出すのは困難
まずはハイライト(論文の要点と概要)を確認しましょう。
- 有機および慣行作物の比較LCAの系統的レビュー。
- 一般的な傾向として、有機システムは環境への影響が低い。
- 特定の作物は、それが属する作物分類とは逆の傾向を示す。
- 2つの農業システムの間では、ホットスポット(環境負荷が大きい活動)となる農業活動が異なる。
- モデリング手法の不均一性は、傾向の定義に課題を投げかける。
一般的には有機農業の環境負荷が低いが、作物によっては逆転する(=慣行農業の方が環境負荷が低い)と記載されます。
最後の1行は、「LCAの手法がバラバラなため、全体的な傾向を明確にするのが難しい」という意味です。
研究ごとにデータの取り方、評価基準、計算方法などが異なるため、全ての研究結果を単純に比較するのが難しく、はっきりとした結論を出しにくいという課題があることが説明されています。
要約:有機栽培の環境負荷が低いと強調
次に要約から一部抜粋します。
”採用された機能単位(重量または土地面積ベース)とは無関係に、収穫量が少ないにもかかわらず、有機システムは全体的に慣行システムよりも優れた環境パフォーマンスを示している。これらの結果は、評価された大半の影響(気候変動、オゾン層破壊、生態毒性、人体毒性、酸性化、富栄養化、資源利用、水、エネルギー)に対して有効である。
特定の作物は、有機栽培の場合、系統的に影響が低いことが分かっていますが、同じ作物でも例外もあります(例えば、果物全体では傾向が当てはまるものの、リンゴには当てはまらない)。”
太字にしたところが非常に重要です。
採用された機能単位(重量または土地面積ベース)とは、環境負荷を作物1kgあたりで環境負荷を測るか、作付け面積1ヘクタール(ha)あたりで環境負荷を測るかの違いです。この論文には、重量ベースと面積ベースの2つのデータが記載され、本文中でも繰り返しその違いについて言及されています。評価の視点によって、結論が変わってしまうためです。
重量ベースで作付け1回あたりの環境負荷を測定すると、化成肥料と化学合成農薬を使用する慣行農業に軍配が上がる傾向が高まります。
限られた面積で多収量を目指すなら、やはり慣行農業の効率の良さは有機農業の上を行きます。
しかし慣行農業における化成肥料製造に伴うエネルギー消費やCO₂排出、農薬による生態系への影響などから、持続可能性(サスティナビリティ)は低下します。
逆に言うと、有機農業には面積あたりの収量を減らしても持続可能性を向上させる意義があると言えます。
論文要旨だけを読んでも浮上する大きな問題は、SITO.ブログでは評価の肝となっている「機能単位」についての解説が一切なされていないということです。
実は彼のブログ解説は、有機農業の価値を過小評価してしまう重量単位のデータのみを掲載しています。
そしてもう1つの大きな問題は、Boschieroら(2023)の論文には「野菜生産の有機化は環境にやさしくないという結論など述べられてはいないということ。
早くもSITO.情報の信憑性が疑われますが、論文を丁寧に読むことで真偽を確認していきましょう。
重量単位でも面積単位でも有機農業の環境負荷は低い
この研究では以下8カテゴリーの作物の環境負荷をレビューしています。
- C(Cereal, 穀類)
- Cot(Cotton, 綿花)
- CR(Crop Rotation, 輪作)
- F(Fruit, 果物)
- L(Leguminous Crop, 豆科作物)
- OilC(Oilseed Crop and Oleaginous Fruit, 油糧作物および油糧果実)
- Pot(Potato, ジャガイモ)
- V(Vegetable, 野菜)
SITO.のブログでは、この中のV(野菜)のみのデータをピックアップしていますが、全8カテゴリーを総合し、13項目の環境負荷指標を「重量単位」でグラフ化したものが以下です(本文内Fig.1)。
まず注目すべきは、光化学オゾン(PO)、微粒子状物質(PM)、酸性化(A)、富栄養化(Eu)、人体毒性(HT)、水使用(Water)、エネルギー使用(En)の7項目がns = 有機と慣行の間の環境負荷に有意差なしであることです。
nsを除いた6項目は、電離放射線(IR)と土地利用(Land)の2項目が慣行農業に、残り4項目は有機農業に低環境負荷の軍配が上がっています。
次に、「面積単位」の同データを見てみましょう(付録 Fig. S5)。
4つのnsを除いたすべての項目で「有機農業の環境負荷は慣行農業と比較して低い」という結果になりました。
分かりやすくするために、論文付録のTableS5とS6で示します。
表の並び順は有意性の高い順に変更して作成しました。重量ベースでは赤色でマーキングした6項目のみ統計的有意性が確認され、そのうちCC、Etox、OD、Resの4項目が有機農業の方が環境負荷が低いという結果です。
面積単位では、有意性が確認されたすべての項目において有機農業の環境負荷が低いという結果となりました。
この結果から論文要約には「採用された機能単位(重量または土地面積ベース)とは無関係に、収穫量が少ないにもかかわらず、有機システムは全体的に慣行システムよりも優れた環境パフォーマンスを示している」と記載されています。
Boschieroらはこのシステマティックレビューにおいて、有機農業全体における低環境負荷性を支持していることは覚えておいてください。
無自覚に著作権侵害を犯すSITO.
さて、問題はここからです。SITO.は「野菜に限っては有機化は環境に優しくない」と主張しています。
この研究において、野菜類の分析対象となったのは以下17個の研究論文です。
論文内Table.1から抜粋しており、左からTable.1内に付与された文献番号、著者と発行年、()内に研究国と調査対象作物の順で簡略化しています。
- (1) de Backer et al., 2009(ベルギー / リーキ)
- (12) Moudrý et al., 2013b(チェコ / ニンジン、キャベツ、タマネギ、トマト)
- (17) Aguilera et al., 2015a(スペイン / 草本作物)
- (19) Cichorowski et al., 2015(インド / 茶)
- (23) He et al., 2016(中国 / トマト)
- (24) Oliquino-Abasolo and Zamora, 2016(フィリピン / ニガウリ、ナス、ショウガ、オクラ、インゲン、トマト)
- (27) Chatzisymeon et al., 2017(ギリシャ / ピーマン)
- (40) Pérez-Neira and Grollmus-Venegas, 2018(スペイン / 都市近郊の複数の野菜)
- (46) Seo et al., 2019(日本 / コマツナ)
- (50) Kowalczyk and Cupiał, 2020(ポーランド / ニンジン)
- (57) Xu et al., 2020(中国 / ナス)
- (58) Yao et al., 2020(台湾 / 葉物野菜)
- (59) Zhen et al., 2020(中国 / 温室野菜)
- (61) Avadí et al., 2021(ベナン / トマト、ニンジン、レタス、キュウリ、スイカ)
- (69) Basavalingaiah et al., 2022(インド / コショウ)
- (73) Kowalczyk and Kuboń, 2022(ポーランド / ニンジン)
- (75) Temizyurek-Arslan and Karacetin, 2022(トルコ / トマト、ピーマン、キュウリ、メロン、スイカ)
最初にひとつ重要なことをお伝えしておきますが、SITO.はこれらの文献を確認して記事を書いていません。
さすがに私はレビュー論文の分析対象論文を全て確認しろとは言いません。
Boschieroら(2023)の全文をきちんと読み、必要があれば参考文献も確認し、適切に解説されていればSITO.ブログに指摘する事はありませんが、彼には「それ以前の問題」があります。
彼は野菜類の環境負荷について「統計的有意さのない6項目を除いても」と述べていますが、野菜類に限定した統計的有意性は、論文内に記述がありません。
彼は野菜類の重量ベースのデータを集めてグラフを自作しましたが、図説の通り出典と異なる誤った改変をしています。
8つのカテゴリー(穀類、綿花、輪作、果物、豆科作物、油糧作物および油糧果実、ジャガイモ、野菜類)全体としてのみ示されている統計的有意性を、そのまま野菜類に当てはめてしまってます。
このようなミスをする原因は、単純に学術論文を読み慣れていない事でしょう。
データを確認する癖がついている場合、このような勘違いはまず起こせません。
重量単位データのO:C比1ラインのみで「○:○」という単純すぎる読み方をしているのは、わかりやすく初心者的です。
あたかもBoschieroら(2023)から直接引用したかのようにグラフを改変掲載し、「野菜の有機化は環境に優しくない」と著者らが述べていない見解を主張しています。
本文内に「(重量単位では)野菜栽培では、OD、PO、Eu、Etox、HT、Water、Land、PM、IRの項目が1より高いO:C比を示している」という1文があります。
何も他に言及はなく、特別な意味合いを持たない1文ですが、品川区のオーガニック給食に反対意見を出したかったSITO.はおそらく「使えるぞ」とでも考えたのでしょう。
例えば水使用量に関して、SITO.は「慣行栽培の方が優れている結果」と述べていますが、Boschieroら(2023)は水について「農業が世界最大の水消費者であるにも関わらず、影響がほとんど調査されていない」と述べています。
面積単位だと影響が逆転するものでもあるため「慣行栽培の方が優れている結果」と著者らは述べていません。当然ですね。
野菜栽培の水使用量を調査した分析対象研究は重量単位で3つ、面積単位で4つしかありません。
その1つを紹介しましょう。
(73) Kowalczyk and Kuboń, 2022(ポーランド / ニンジン)
ポーランドにおける慣行および有機栽培のニンジン生産における水の使用量をLCAに基づいて評価した研究です。
- 慣行栽培: 0.196 m³/t
- 有機栽培: 0.049 m³/t(慣行の4分の1)
- 慣行栽培: 10.4 m³/ha
- 有機栽培: 1.9 m³/ha(慣行の5分の1未満)
有機栽培は重量単位で4倍、面積単位で5倍以上少ない水使用量であったという結果が出ています。
この研究が、Boschieroら(2023)の野菜類の水使用量についての分析対象として、重量単位で3つのうち1つ、面積単位で4つのうち1つとなっています。
より多くのサンプルがなければ慣行と有機栽培のどちらが水使用による環境負荷が低いかなど、とても結論付けられないことが分かります。
このような詳細を知ってか知らずか不明ですが、SITO.は原著論文をそのまま引用したかのように見せかけて、著者らとは異なる見解を主張しながら、統計的有意性についてのデータを改変する形でブログ掲載しています。
これは同一性保持権が守られていないため、著作権侵害行為に当たります。
以下、私とは関係のない彼の投稿ですが….
彼自身も正義感から本来の意図とは異なる主張を加えて元文献を改変していますが、他人のことは見えても、自分のことは見えなくなるようです。
さらに細かいことを指摘すると、統計的有意性を作物全体から引用したものの、それすらnsは7つなのに6つと間違えて掲載しています。
データを確認する癖があれば、このようなミスは稀です。
野菜類のO:C比を重量と面積で比較
次は有機野菜と慣行野菜に限定した環境負荷比較をしましょう。
論文付録のTableS5とS7から野菜類O:C比の中央値を拾い、重量単位と面積単位の比較をした表を作成しました。
分かりやすいように、慣行農業の環境負荷が低い項目(O:C比1以上)を赤字に、有機農業の環境負荷が低い項目(O:C比1以下)を青字にしました。
O:C比1から±0.05の項目は、差が見られないものとして色付けから外しました。
重量単位では(統計的有意性はともかく)慣行栽培に軍配が上がる項目も、面積比では綺麗に結果が逆転しています。
持続可能性を考えれば「野菜に限っては有機化は環境に優しくない」という結論にはならないことが分かります。
先に述べたように野菜類に限定した各データの統計的有意性は分からないのですが、作物全体の有意性傾向をそのまま野菜類に当てはめた条件で、有意性の高いものを抽出した表は以下です。
マス目を***( P < 0.001)は濃い赤、** ( P < 0.01)は中間の赤、 * (P < 0.05)は薄い赤、 ns (有意差なし)はグレーで塗っています。
これは正確な統計処理に基づくものではありませんが、少なくとも有機農業がより環境負荷が高いと結論づけるものではないことを、さらに理解できるかと思います。
1つの研究結果が全体に影響を与えている
サンプル数の少ない事例から統計をとる場合、1つの極端なデータが全体の結果に大きな影響を及ぼすことがあります。
例えばBoschieroら(2023)論文内「生態毒性(Etox)とヒト毒性(HT)」の項目には以下のような記述があります。
”Avadí ら(2021) の野菜に関する研究では、すべての有機野菜(ニンジン、トマト、レタス、キュウリ、スイカ)において、慣行システムと比較してヒト毒性影響(HT)が高かった理由についての情報が不足している。”
これはアフリカのベナンにて、トマト、ニンジン、レタス、キュウリ、スイカを対象に行われた研究のことです。
Angel Avadi et al.
LCA and nutritional assessment of southern Benin market vegetable gardening across the production continuum
ベナン南部の市場における野菜栽培のLCAと栄養評価
Environmental Impact Assessment Review 102 (2023) 107187
(61) Avadí et al., 2021(ベナン / トマト、ニンジン、レタス、キュウリ、スイカ)
ヒト毒性影響(HT)は農薬散布が影響の主因と考えられるため、野菜類においては有機栽培で負荷が高まるのは直感に反しますね。
Avadiら(2021)の研究論文を確認すると、すべての作物と地域を総合した場合、製品1kgあたりの有機栽培の環境負荷は慣行栽培と比較し10倍に達したと述べられていますが、全文を読むとその理由が見えてきます。
- 一部地域の有機栽培の畑は窒素の多い有機肥料(鶏ふんと油かす)を過剰投入しており、硝酸態窒素(NO₃⁻)やアンモニア(NH₃)の流出増加から富栄養化リスクを上げている。
- さらに土壌が砂質であるため肥料成分が流れやすく、地下水汚染に繋がりやすい。
- 灌漑用ポンプの燃料消費が多い(低機能な設備、少ない降雨量、気温の高さなどが考えられる)
- 特定の有機栽培畑で自家消費目的の低収量栽培が行われており、収量あたりの負荷が増大している。
有機栽培の分析対象には「低収量の自家消費目的の畑」が含まれ、なおかつ窒素分の多い肥料を過剰投入したものが土壌から流出しやすい条件から、有機栽培の環境負荷が10倍にもなっています。
Avadiら(2021)のケースは一般化できない事例でありながら、野菜栽培のヒト毒性(HT)を調査している7つの研究論文のうちの1つとなり、全体の結果に大きな影響を与えています。
この状況から、Boschieroら(2023)は「Avadiら(2021)の研究は野菜の有機栽培によるヒト毒性影響(HT)が高かった理由についての情報が不足している」と述べており、有機と慣行のどちらがヒト毒性環境負荷が高いかどうかという見解を述べていません。
Boschieroらの論文全体を通して理解できるのは、ある程度明確になっていること(気候変動に対する影響は有機栽培の方が良好であるなど)以外の、研究数の少ない議題に関しては、あくまで特定の作物において有機または慣行のどちらかが環境負荷が高かった場合に、その考えられる原因を示すことを重視しているということです。
例えば有機栽培のジャガイモはヒト毒性(HT)が高いという結果が出ていますが、これを硫酸カリウムの大量使用によるものであると述べています。
研究数の少ない項目に関しては、O:C比が1を上回るか下回るかだけをみて「どちらが環境に良いか」を判断するための材料ではありません。
また日本では発生しないようなケースもあります。日本で流通しているのは化学合成した硫酸カリウムであり、有機JAS不適合資材となるため、日本の有機ジャガイモ農家が大量に硫酸カリウムを使用することはありません。
SITO.はこれらの事情を理解していないようですが、さらに「普通に文章が読めていない」ことが以下の記述から分かります。
赤字で囲った部分は「イタリアのオリーブ栽培」について説明されたものであり、これは野菜(V)ではなく油糧作物および油糧果実(OilC)についての説明です。
彼は先日、私に対して日本語が読めないのではないかと心配する投稿をしていますが、そっくりそのまま彼の言葉を返上する必要がありそうです。
野菜の分析には日本の研究が1つしか含まれない
Boschieroら(2023)の野菜に関するデータは17の研究から構成され、研究国はアフリカ、ヨーロッパ、中東、アジアと幅広いです。各国で気温、湿度、土壌の質の違いもあり、肥料の質や栽培方法も異なりますので、貴重な資料にこそなれど、現時点で結論を出すのは困難です。
真実が見えてくるのは、日本のLCA研究数が増えてきてからでしょう。
Boschieroら(2023)に含まれる野菜についての日本の研究は1つだけでした。
(46) Seo et al., 2019(日本 / コマツナ)
せっかくですから、読んでみましょう。
小松菜を対象として、有機栽培・低投入栽培・慣行栽培の温室効果ガス(GHG)排出量を比較しています。結果は以下。
有機栽培
-
- 10a(約1,000㎡)あたり:196.7 kg CO₂-eq/年
- 1t(1,000kg)あたり:72.3 kg CO₂-eq/年
低投入栽培(化学肥料・農薬使用を約半分に抑えた農法)
-
- 10aあたり:322.6 kg CO₂-eq/年
- 1tあたり:120.7 kg CO₂-eq/年
慣行栽培
-
- 10aあたり:594.0 kg CO₂-eq/年
- 1tあたり:220.7 kg CO₂-eq/年
面積単位と重量単位の双方において、有機栽培の温室効果ガス排出量は最も低いという結果となっています。慣行栽培との差は3倍です。
機能単位に関わらず、気候変動への影響は有機農業が慣行に比べて良好であることはBoschieroら(2023)でも述べられています。
13項目の中でも気候変動は重要な項目であるがゆえに最も研究数の多いテーマとなっていますから、この事実は重要です。
Boschieroら(2023)結論の要点
野菜に関する有機vs慣行の環境負荷の検証はこのあたりで終え、論文の結論で述べられている要点をまとめます。
【各項目の全体的な傾向】
- 有機栽培は、気候変動(CC)、オゾン層破壊(OD)、生態毒性(Etox)、資源使用(Res)において、慣行栽培より環境負荷が低い。
- 酸性化(A)、富栄養化(Eu)、人体毒性(HT)、水・エネルギー消費の負荷も低い傾向があるが、統計的な有意差はない。
- 光化学オゾン(PO)、微粒子(PM)、電離放射線(IR)、土地利用(Land)では、有機栽培の環境負荷が高い。
- 果樹類(F)や輪作(CR)では、有機栽培の方が環境負荷が低いが、作物ごとに例外もある。
このようにほとんどの重要な項目は有機栽培の環境負荷がより低いと論文結論に改めて記述されています。
その中でも「野菜は違うぞ」とSITO.は考えたものの、ただ論文の意味を理解出来なかっただけだったというお粗末な話でした。
【今後求められる課題】
- 肥料の使用量削減。有機・慣行ともに栄養素の損失を最小化する努力が必要。
- 農薬の低毒性化。慣行では生態・人体毒性の影響が大きい。
- 機械燃料の削減。有機では燃料使用によるエネルギー消費が課題となっている。
- LCAの標準化が必要。評価手法のばらつきが比較を困難にしている。
- 生物多様性、土壌有機炭素、水資源の影響評価を強化すべき。
- 今後、一貫したLCA手法の確立と未評価の環境指標(生物多様性、土壌質など)の考慮が必要である。
最後の2つに示した「生物多様性と土壌有機炭素の保持」は持続可能性に直結する非常に重要なテーマです。
この2つは現在までLCA研究であまり考慮されていないようですが、一般的に有機栽培はこの2つに関して利点があると考えられています。
農家ではなく自家消費としての栽培をしている私としては、機械燃料をほとんど使用しない家庭菜園を有機栽培主体で行うことは、小さくても意義のあることだと考えています。
それを「キャベツ1個栽培するのに1000円かかるから買った方がいい」とデマを吹聴し、読めもしない論文から農業デマを流すSITO.に注意する良識ある農業関係者は存在しないのか?と、改めて問題提起をさせていただきます。
強い信条が誤読を招く
Boschieroら(2023)論文の結論には以下の一文が記述されています。
”評価された研究は有機栽培と慣行栽培システムの一対比較を行なったが、農業システムへのLCAの適用には大きなばらつきがあるため、栽培システムの比較は困難であり、傾向の定義も困難であることを強調しておく。”
それにも関わらず、SITO.は野菜の有機栽培化は「環境に優しくない」と考えてしまいました。
しかも、壮大な誤読によって書き上げた「アンチオーガニック給食プロパガンダ記事」によって、「環境にやさしいの解像度が上がったから言えることはしっかり言ってく」と自信たっぷりです。
「地球環境へのやさしさの多寡がいかほどのものなのか」と、難しい単語を使って論文を読めてるフリ。
フォロワーがバカばかりなので誰にも突っ込まれずご満悦かもしれませんが、中身は解説した通りボロボロです。
「普通に文章が読めなくなっている」ことも解説した通りであり、この状態は「イタイ」の一言。
彼に限らず、ある目的や欲望に強固に囚われた人間は、このような状態に度々陥ります。
どうしてもコロナワクチンに反対したい!と思う人は、どのような内容であれコロナワクチンのリスクが見える論文を見つけると、それを嬉々として「証拠を見つけたぞ!」と拡散します。
正しくは、その論文の対象が人間であれば、リスクが発生するのはどの程度の確率であるかを考慮する必要があり、動物が対象であれば、人間にとっての影響はどの程度であるかを換算して結果を読み解く必要があります。
しかし「コロナワクチンに反対したい!」という目的や欲望が、そのような理性を失わせます。
SITO.は、私に対してなんでもいいから攻撃したい!という欲望から、著作権侵害を起こし、メーカーの取扱説明書が法的な権限を持つと勘違いを起こしました。
そして今回は、品川区のオーガニック給食に反対したい欲望に駆られ、論文内容を大きく誤解しななら著作権侵害を無自覚に起こし、農業デマを潰すつもりが自分自身が農業デマアカウントになってしまったという結末を迎えました。
陰謀論系の医師である崎谷博征は、SITO.と同じように自分自身の目的に囚われ、欲望が抑えられなくなった結果、やはり著作権侵害をしながら論文の内容とは異なる情報を吹聴しています。
大分県議会議員の息子であり、陰謀論思想を持っている栄養カウンセラー吉冨信長は、マグネシウムビジネスを推進する目的と欲望に囚われた結果、論文内容と真逆の内容を無自覚に伝えてしまっています。
上の2つの記事ではかなり具体的な例を解説していますので、栄養情報に興味があればお勧めします。
SITO.は、彼が嘲笑する陰謀論者と無自覚に全く同じことをしています。
その無自覚に陥る罠にハマってしまう原理を前回の記事で解説していますので、まだ読まれていない方にお勧めします。
農家がハウスにネコを入れて炎上している件
pt.3ブログで、取説違反でポリスに捕まるぞ!とアホをぬかすきゅうり農家、石垣将徳を少し紹介しました。
農家なのに
昨日初めてトラクターの取扱説明書見ました。
したら、取扱説明書の内容が理解できない人は使っちゃいけないという文言が…
昨日からトラクターを使っている証拠動画を撮っているので、今日にも警察のお世話になるかもしれません。
…あと、妊婦に草刈機を使わせちゃう人へ。… pic.twitter.com/IsGH9XoIjF
— 石垣将徳@農業FCを作ってるきゅうり農家 (@natumatazu) January 31, 2025
この農家が、きゅうり栽培のハウス内で猫を飼っている様子を人気取りのために投稿していたところ、衛生上の問題を指摘され、炎上していたようです。
仕事になりません。 pic.twitter.com/MgHWpHdocj
— 石垣将徳@農業FCを作ってるきゅうり農家 (@natumatazu) February 24, 2025
本当にXは些細なことで炎上します。
呆れてものが言えません。
このきゅうり農家については因果応報だろという感想しかなくどうでも良いのですが、SITO.の反応は見過ごせません。
(ポストリンク)
自分自身が、反射的な批判と個人に対する誹謗中傷を積極的に促していた張本人であることを忘れたのでしょうか?
ある目的と欲望に囚われると自分自身の矛盾について寛容になっていきます。
そんな人達と、これまで大量に出会ってきました。
匿名で誹謗中傷を楽しむ農家
以下、いまだに私への「意味のないただの反射的な誹謗中傷」に興奮しているSITO.ですが…
ほぼ毎日どころか数時間おきに私のXをチェックしているSITO.君です。
3回も引用ポストははしゃぎ過ぎなんじゃないの? https://t.co/uVAJwcIvdM pic.twitter.com/eduB1vig9J
— 藤原悠馬 (@honoiro2021) February 27, 2025
SITO.君はねぇ。私への批判材料にこんなアカウントを度々利用するの、良くないと思いますよ。
あと、最近もう「草刈」しか言えてない。
もうちょっと知的なパンチ欲しいよね。 pic.twitter.com/5k3RBJL6bn— 藤原悠馬 (@honoiro2021) February 27, 2025
投稿なし、0フォロワーのゴミアカウントを私の批判材料にしているのは、3回か4回目くらいですね。
横から失礼します。多分プリンは火炎放射器だと思います。もし間違ってたら申し訳ないです。
— 🍇shizenha (@shizen_yade) February 28, 2025
そしたらこのゴミアカは、私に絡んでいる別のゴミアカのサブアカではないかというコメントを頂きました。
真偽は確かめようがありませんが、あり得ると感じられる似たノリがあります。
どちらも山口県にいるようです。
匿名で所在も明かさず「売られた喧嘩は全て買う」はモラルが無さすぎて呆れ返るしかありません。
匿名ゴミアカを利用して正義マンを演じる匿名のSITO.にも辟易します。
彼らと比べると、実名顔出しで堂々とバカを晒し続ける姿勢を貫く芋メロン王子はまだマシです。
知的レベルはプリンと放射器並ですが。
今回の正論パンチはいかがでしょうか?
謎のお友達になれたかも?発言で締められていますが、私は正論パンチを私1人で多勢に喰らわすことを信条としており、君のように群れて集団リンチをする趣味はありません。
次は、予定を伸ばしている「家庭菜園の栽培コストを詳しく計算した記事」をお送りする予定です。
これはSITO.が要求していた記事ですから、適当に流そうもんなら親に苦情でも入れるかと考えているところです。
豊橋市議会員立候補の息子と、そのお友達のダサ男がなんだって〜?https://t.co/0eg5wyY9NW pic.twitter.com/0m2V2rEWCg
— 藤原悠馬 (@honoiro2021) February 27, 2025
キャベツ農家SITO.のネットリンチ記録
2025.01.26 過激な慣行農家と現代医療派の深い闇(キャベツ農家SITO.のネットリンチ記録pt.1)**
2025.01.29 メーカーが妊婦の草刈機使用を禁止?(キャベツ農家SITO.のネットリンチ記録pt.2)**
2025.02.17 偽善の中身は100%悪意(キャベツ農家SITO.のネットリンチ記録pt.3)**
2025.02.23 誰もが無自覚に陥るエコーチェンバーとフィルターバブル **