がん死亡率のデマを流す吉富信長〜典型的な栄養療法詐欺の手口〜

 代替医療と栄養療法という名の「反現代医療詐欺」に惑わされないためのガイドライン的な記事ができました。今回も有用な記事を書けたと自負しております。

—目次—

  1. 吉冨信長のプロフィール
  2. CNA(細胞栄養学®)の受講料
  3. 明らかなデマと詐欺で幕を開けた説明会
  4. 視聴者を欺くための自作のグラフ
  5. がんの年齢別死亡率
  6. がんの年齢調整死亡率
  7. 別の動画で真逆のことを言う吉冨信長
  8. 本当に日本人はアメリカ人よりガン死亡率が高いのか?
  9. がんは高齢化社会で当然増える
  10. 現代医療は反現代医療をどう見ているか?
  11. OECDは世界一の認知症大国は日本だと報告した…というデマ
  12. デマで医学を否定し自身の栄養学を正当化する吉冨
  13. 現代医療の役割は対処療法
  14. 総括

 


 

 どうも、代替医療・栄養療法ジャーナリストの藤原悠馬です。

 今日は一昨日インスタでお知らせした通り、栄養療法界隈で有名な吉冨信長(wikipedia)の詐欺ビジネスを告発します。

 SNS総フォロワー数23万(2024年8月時点)で、特に分子栄養学界隈では著名な人物ですが、プロフィールを改めて提示しておきます。

吉冨信長のプロフィール

  •  大分県中津市出身。2000年、東京理科大学卒業後、SE業界に就職。2007年、SE業界引退後、青果業界へ転職。
  •  2013年、株式会社コミディア設立。栄養カウンセリングやセミナーを行い、食と栄養に関する健康情報をSNS等で発信するようになる。

 これがwikipedia掲載のプロフィールですが、これだけ読むとSE業界を引退してから異業種の青果業へ転職したかのように見えます。

 どこの会社に転職したのか明記はありませんが、彼は大分県地方卸売市場 中津中央青果株式会社の役員であり、経営者は吉冨の親です。

出典:Google Map

出典:イエローページ

 役員名を見る限り中津中央青果(株)は家族経営の卸売市場で、代表取締役の吉冨麻里子は信長の母。信長は監査役です。

 信長の父の名は幸吉で、現在は亡くなっているようですが、「吉冨幸吉 よしとみ幸吉 大分」で検索すると2つの顔が見えてきます。 

出典:X – 幸青会スタッフ

 1つは大分県議会議員であることです。

 2つ目は、競走馬の生産者および馬主としての情報です。

出典:netkeiba

 県議会議員で競走馬の生産者である父を持ち、青果卸売市場経営者の息子が吉冨信長です。

 今回調べていたら霊園経営法人の理事長であることも分かりました。

出典:大分県website

 中津霊園ホームページによれば霊園の面積は15,017㎡とのことで、なかなか広大な規模の霊園です。

 競走馬生産、霊園経営、県議会議員、卸売市場経営、….ということで、吉冨一家は大分県大津の権力者で富裕層です。

 信長という名前をつけられた背景も見えてきますね。父は野心的な権力志向だったのでしょう。

 吉冨の会社コミディアは小規模に農産物流通も行っていたようですが、もちろん親のサポートやコネクションによるサポートがあってのことでしょう。

 以上、知られざる吉冨信長一家のプロフィールでした。

CNA(細胞栄養学®)の受講料

 さて本題です。

 先日のブログでお伝えしたとおり、吉冨はデマを平然と流す人物です。その吉冨がセミナー内容と受講料を説明会に出ないと明かさないと言う時点で、これは相当怪しいなと。たったひとつでも平然とデマを流し、その後に訂正もしない人間は、他にも数々のデマを流しています。これは間違いありません。

 その吉冨が昨年から「CNA(細胞栄養学®)マスターWeb養成講座」という長期的な栄養学セミナーを展開しており、今年の夏は第2期の受講生募集に伴うオンライン説明会を行っています。

 デマを流す人間が、説明会に参加しなければ詳細のわからない栄養学セミナーを開催すると。これだけで相当いかがわしい内容だろうと察しがつきます。そこで視聴してみたところ、予想以上にストレートに詐欺を行っており大変驚きました。

 まずCNA(細胞栄養学®)マスター養成講座の受講料をお知らせしましょう。全7講座、1講座あたり240分で税込38万5千円です。値段設定は自由ですから、高額であることは全く否定しません。

 ただし、高額な栄養学講座を宣伝するための説明会で「デマで受講生を勧誘している」としたら、全く話は異なります。

明らかなデマと詐欺で幕を開けた説明会

 以下は説明会(栄養ラボ)の冒頭部分を切り取った動画です。

 説明会は7/29(月) 、8/5(月) 、8/25(日) 、8/26(月) の4回開催がありますが、私が視聴したのは8月5日の回です。

 最初に自己紹介があり、その後に「なぜ私が皆さんに健康情報を伝えたいのか、その背景をまず知ってほしい」として語られた部分です。

 この話は「日本と世界の現状」と題して語られました。

 最初に提示されたのは横軸が1950年〜2010年までの年代、縦軸が人口10万人当たりの全がん死亡者数を示した折れ線グラフです。

 赤は右肩上がりに死亡者数が増加しており、青は下がっている。どちらかが日本を示すが、どちらだと思うか?という問いを投げかけ、答え合わせがなされます。

 

 「アメリカはガン死亡者数が減少しているにも関わらず、日本は増加している」と。

 「アメリカのみならず世界ではガン死亡者数が年々減少している」とも告げられました。

 次に見せられたのは認知症の各国データです。人口千人当たりの認知症患者数が棒グラフとなっています。

 吉冨はOECDのホームページで是非見てくださいと告げたあと、

 「非常に不名誉で誇れないが、(ワースト)第1位は日本であり、世界一の認知症大国である」

 と口調を強めて伝えました。

 そして「日本は寿命が長い健康国ではないのか?」と疑問を持つ方に向けて、

 「それは平均寿命の話であり、健康寿命に関しては10歳くらいの開きがある。本当の寿命は健康寿命だ。

 さらに、

 「健康寿命が低くても平均寿命が長いのであれば、それは医療で延命治療をしていたり、様々な理由と背景があり、無理やり長生きしているのである。

 と続け、日本が世界と比べてガンと認知症の問題を抱えていること、健康ではないことを主張しました。

 その根拠として2017年論文が示され、「日本では認知症が増え続ける一方で、アメリカでは認知症患者が24%も減少している」とスライドに写し、「アメリカだけでなくイギリスでもオーストラリアでも認知症は減少している」とさらに日本の健康問題を強調しました。

 そして「この日本と欧米諸国の違いはなんなのか?」と疑問を投げかけた上で、答えは示さず、「世界情勢、政治、経済から見て日本は危機的な状況にある」と不透明な不安を煽ります。

 そして「健康という土台があって私たちは生活をしており、重要なのは予防と栄養である」として次の話に入っていきます。

 ここまで切り抜いた動画の約半分、3分半程度で伝えられたものです。

 

 いかがでしょうか?

 これを見て「日本は危機的な状況にある!」と考える人もいるのでしょう。吉冨は説明会の冒頭にこれを持ってくるわけですから、一定の共感が得られるという見込みを持って行っているはずです。

 でも考えてみてください。この話がもし本当であれば、スライドで示されたデータが事実であるならば、本当にこのことを伝えたいのであれば、彼の23万ものSNSフォロワーに対してなぜオープンに公開しないのでしょうか?

 中立、公平、科学的根拠を売りにする吉冨として、もしこの動画をYouTubeで公開して批判的コメントが多数ついてしまうと、セールスに大きな悪影響がもたらされます。なにせ38万円を超える金額ですから、受講者は良質な情報を購入できるという確信がなければ支払うことはありません。

 そう考えた時に、オープンにしない理由として、これは高額なセミナー受講費を支払わせるためのデマ事実に反する扇動的で謀略的な宣伝であるという可能性も考えられないでしょうか?

 全がん死亡率年次推移グラフなど、公的機関のwebsiteや論文内から引用できるにも関わらず、不可解にも2010年までのデータで自作されています。このようなやり口は疑うべきものであることを最初に強調しておきます。

視聴者を欺くための自作のグラフ

 では具体的にデマと詐欺の手口を解説していきます。

 最初に提示されたグラフには情報ソースとして“※厚労省「人口動態統計」、米国総務省「Statistical Abstract of the United States」”と記載されています。

 一般の方は、これは公的機関から得られた情報をグラフ化したものだと受け取り、なんの疑いも持たないでしょう。

 ところが、がんの統計をとる際に最も重要な要素を明示せずにこのグラフは作成されています。

 その要素とは「年齢調整データか否か」です。

がんの年齢別死亡率

 以下は平成18年(2006年)までの死因別死亡率年次推移のグラフです。

出典:厚生労働省website

 古めのデータですが、2021年までのグラフはこちらのサイトで確認できます。死因の順位としては06年も21年も変わりません。ガンはワースト1位です。このグラフはだいたいの方がどこかで見たことがあるため、吉冨の話を信じてしまう可能性があります。

 しかしがんの死亡率を年齢別で見たときに、印象は大きく変わります。

出典:国立がん研究センター がん情報サービス

 がんの死亡率が高いのは圧倒的に高齢者です。そして皆さんもご存知の通り、日本は世界最大の高齢者大国です。

 日本のような国において、がんの死亡数が高まるのは当然のことです。がんで死亡する原因は老化だけではありませんが、年齢は確かに死亡率を高める最大の要素です。

 この話に納得しない反現代医療や陰謀論系の方がいることを知っているので補足しますが、コロナ感染による死亡率が圧倒的に高齢者で高いことと同じだと考えてください。

 したがって、そのある国のがんの死亡率を正確に把握するためには、年齢調整をして死亡率を出す必要があります。

 日本国内で癌やコロナ感染死亡率を各県ごとに導き出す場合も、年齢調整をしなければ高齢者の多い県で死亡率が高くなってしまうので、疾患や感染症による本当の影響を知る際に年齢調整は必須です。

がんの年齢調整死亡率

 では年齢調整をしたがんの死亡率グラフを見てみましょう。

出典:国立がん研究センター がん情報サービス

 吉冨の自作グラフと比較するため、2010年に赤の縦ラインを加えて引用しています。青線が死亡率、橙線が罹患率で、どちらも人口10万対の数値です。

 年齢調整をしていない吉冨の自作グラフでは10万人あたり300人弱の死亡数でしたが、年齢調整したこのグラフでは2010年で130〜140人ほどの死亡数です。そして2010年以降も下がり続けています。

 そもそも年齢調整をした場合は1985年から2000年ごろまでは横ばい、その後は右肩下がりにがん死亡率は減少しており、決して日本でがん死亡率が増加しているという事実はありません。

別の動画で真逆のことを言う吉冨信長

 次に「日本はがん死亡率がアメリカより酷く危機的な状況にある」という吉冨の主張を検証しますが、その前に見ていただきたいものがあります。

 これは最近の吉冨信長インスタグラムにアップされていた動画『クエン酸健康法』です。OECD(経済協力開発機構)作成の世界各国がん死亡率データを見せながら、「最も(がん死亡率が)低いのは日本かと思ったけど、日本は7位くらい」と解説しています。以下拡大図です。

 死亡率がもっとも低いのがメキシコで、コロンビア、トルコ、韓国、スイス、日本(ベスト7位)と続いています。もちろんこれは、年齢調整死亡率です。

 呆れませんか?7月26日にこの動画をインスタグラムで配信し「日本はがん死亡率が低い国」と伝えながら、7月29日にはCNAマスター養成講座の説明会で「日本のがん死亡率は危機的状況にある」とデマを煽っています。

 この動画『クエン酸健康法』はOECDの2017年データを元に語られていますが、細かいところで不正があります。

 吉冨動画ではあの図が誰でもアクセス可能であるかのようにURLが記載されていますが、あの通りに打ち込んでもアクセスできません。リンクは無効となっています。

 ただしOECDウェブサイトで年齢調整がん死亡率のデータにはアクセスできます。次の図を見てください。

 上が吉冨動画の入手先不明の図で、下が現在入手可能なOECDデータです。どちらも2017年データなのですが、吉冨動画の図に示される「4位ブラジル」は、現在閲覧できるデータでは消去されています。

 この理由は不明ですが、察するに何かブラジルのデータに間違いが後から発覚し、消去されたのかもしれません。

 吉冨は「クエン酸を含むライムをよく食べる南米の国はがん死亡率が少ない可能性がある」と動画「クエン酸健康法」で主張します。そして彼はトランス脂肪酸のデマを流したのと同様に、自分の主張に合わせてエビデンスを都合よく利用します。

 わざわざブラジルが記載される古いデータを利用したのは、南米の国が上位に多数あると印象付けたかったのでしょう。また、日本人はクエン酸を含む梅干しを食べるから、沖縄県民はシークワーサーを食べるから長寿なのだとここでは主張します。ご都合主義です。

 ちなみに現在入手可能な最新データは2020年度のもので、以下のようなランキングとなっています。

 南米は2017年と同じくメキシコ、コロンビアのみで、ブラジルの名はありません。そして吉冨のオンライン説明会の主張と反して、日本(6位)はアメリカ(10位)よりもがん死亡率が少ないことが示されています。

本当に日本人はアメリカ人よりガン死亡率が高いのか? 

 各国のがん死亡率の真相を探るために、より具体的な正しいデータをチェックしましょう。

 下の図は、年齢調整がん罹患率/死亡率を国際がん研究機関(IARC)から、 平均寿命と健康寿命をWHO発行のWorld health statistics 2022から抽出して表にしたものです。どちらも2022年最新データとなっています。

(注)前述した国立がん研究センターとOECDデータと数値が異なりますが、おそらくWHOの年齢調整における標準化の手法が異なるためと思われます。

 日本とアメリカだけでなく、吉冨が「ライムを食べるからがん死亡率が低い可能性」と伝えるメキシコ、コロンビア、ブラジルに加え、日本と同じくがん死亡率の低い国として常に上位にランクインしている韓国も参考に入れて表を作成しました。

 こうするとよく分かりますね。75歳以下のがん死亡率は、OECDのデータが示す通り、日本は世界でもとても優秀であり、アメリカよりも少ないのです。つまり日本のがん死亡者数が多いのは、明らかに超高齢化社会の影響が強いということです。

 前述のOECDデータから消えたブラジルのがん死亡率は、年齢調整に関わらず、あまり芳しくないようです。

 吉冨は寿命について以下のように述べ、日本人の健康を否定しました。

 「日本は平均寿命と健康寿命に10歳くらいの開きがある。本当の寿命は健康寿命だ。」

 「健康寿命が低くても平均寿命が長いのであれば、それは医療で延命治療をしていたり、様々な理由と背景があり、無理やり長生きしているのである。」

 しかしWHOのデータによれば、どこの国も日本と同様に10歳程度の開きがあります。アメリカは12歳以上離れており、日本よりも乖離があるようです。

 さらに日本は健康寿命も世界一となっています。作成した表は2022年度のものですが、23年度も同様に1位であるようです。

【2023年版】世界の健康寿命ランキング(WHO) | 男女ともに日本が健康寿命世界一に(セカイハブ)

 吉冨は一体何を話しているのでしょうか?

 日本とアメリカの違いをよく確認してください。アメリカの罹患率の高さは検診による発見率の高さも影響していると思いますから単純な比較はできませんが、平均寿命は5.8歳、健康寿命は8歳、日本人はアメリカ人よりも寿命が長いのです。その差が年齢調整をしない総がん死亡率にあらわれるのは当然のことです。

がんは高齢化社会で当然増える

 下の図は、Our World in Dataの1950年から2100年までの全世界の年齢別人口とその予測です。

 中央の紺色の三角形が1950年、緑色のラインまでが2018年、最も外側のラインが2100年の予測です。横軸は10歳から90歳までの年齢を示しています。縦軸は人口です。

 横軸の上方までラインが広がるほどに高齢人口が増えているということになりますが、1950年と2018年で比較すると、人口そのものが爆発的に増えているものの、特に50歳以上の人口が急激に増加したことがわかります。高齢化は全世界的な問題です。

 これは根拠ではなくイメージの話ですが、人間がこれだけ増えては死ななくなった社会において、本来死ぬべき細胞が死ななくなり、とめどなく増殖するがん細胞が猛威を振るうというのは、社会と疾患が繋がっているようで興味深くはないでしょうか?

Kota Katanoda et al.
International comparison of trends in cancer mortality: Japan has fallen behind in screening-related cancers
がん死亡率の国際比較:がん検診関連で遅れをとる日本
https://academic.oup.com/jjco/article/51/11/1680/6360547

 このグラフは論文からの引用ですが、日本、韓国、アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、どの国でも年齢調整がん死亡率は男女ともに低下しています。がんの早期発見と切除は、がんによる死亡を免れたければ最も確実な方法です。医療アクセスと技術の向上が、全世界的ながん死亡率の低下に確実に寄与しています。

 医療によって不必要に延命が施されるケースも当然あるのですが、がんの発症率が上がってくる50代〜70代くらいの間に、早期発見と切除によって、本来死ぬはずだった人が死ななくなったケースは山ほどあるでしょう。まだ死ぬには早い年齢ですから、その人達はその後も元気に生き続けます。うちの父もその1人です。

現代医療は反現代医療をどう見ているか?

 さて、吉冨信長の「がん死亡率のデマ」についてご理解いただけましたでしょうか?

 彼のような反現代医療思想を持つ人間を、現代医療側の人間はどう見ているかを知るために、がん研究者の大須賀覚氏による「なぜ、日本のがん死亡者数はどんどん増えているのか?」というヤフーニュース記事から一部転載します(余裕のある方はリンク先を全文読むと、今回解説してることをより深く理解できるでしょう)。

不安を煽る情報に注意
今回、がん死亡者数の解釈について解説しました。なぜ、この話を取り上げたかと言いますと、実はこのデータを使って、不安を煽って、怪しい商品を売りつけようとする業者がいるからです。

ネットや書籍で以下のような記述を見ることがあります。

「日本のがん死亡者数はどんどん増えている。これは、がん治療のレベルが低いからだ。病院の治療を信用しないで、このビタミン剤を飲みましょう。」

「食生活が荒れているから、日本の死亡者数はどんどん増えている。もっと食事を改善しないといけない。この健康食品を買って食べなさい」

このデータを利用して、不安を煽って、商品を買わせようとする記事が散見されます。

がん死亡数が増えているのは事実なのですが、その背景を正確に理解しないと、誤解をしてしまいます。データを悪用する人たちに騙されてしまわないように、注意をしていただければと思います。ぜひ、正確な情報をもとにして、がんという病気と向き合ってもらいたいなと思います。

 文中の「このデータ」とは、年齢調整がん死亡率ではなく、日本の総がん死亡者数を示したグラフのことです。

 このグラフを利用して不安を煽り、医療への不信感と共に健康に関する情報や商品を売りつける記事がインターネット上に増えている状況の中、現代医療のがん研究者が注意喚起の記事を書いたということですが…

 これ、吉冨信長そのまんまですよね?

OECDは世界一の認知症大国は日本だと報告した…というデマ

 では認知症の話に移りましょう。

 吉冨は「 2019年、OECD(経済協力開発機構)によると、世界一の認知症大国は日本であったことを報告」とスライドに示し、以下のURLを示し、視聴者に「見てください」と伝えています。

https://www.oecd-ilibrary.org/sites/132957e7-en/index.htm/?itemld=/content/component/132957e7-en

 しかしクエン酸健康法動画と同じく、これは無効なリンクです。アクセスできません。

 そして皆さんもうお分かりですよね。認知症はがん以上に高齢者の疾患です。

出典:首相官邸website

 見ての通り、認知症は基本的に70代以上の疾患です。

 グラフでは男性の認知症有病率が80代後半から女性と比較して低下しますが、これは男女の寿命差(女性の方が6年ほど平均寿命が長い)が大きく影響しています。

 つまり認知症の有病率は寿命と強く関連しています。長寿国日本が認知症大国になるのは当然のことでもあるのです。

 吉冨の主張は、がん死亡率と同じく、あたかも日本人が不健康であるが故に認知症大国であるかのように思わせるような恣意的な誘導です。

 リンクが無効なのでOECDが日本をどのように伝えたかは分かりかねますが、「OECDは世界一の認知症大国は日本だと報告した」という言い方はデマだと言えるでしょう。

デマで医学を否定し自身の栄養学を正当化する吉冨

 ではオンライン説明会切り抜き動画の後半に話を移します。

 ここで吉冨が述べたことを以下に示します。

 

【1】私はがん患者を数百人ほど見てきたが食事療法と栄養療法での完治は難しい。

【2】しかし最先端の医学が波及しても病気の罹患数は減るどころか増えるばかり。

【3】したがって予防に勝る治療はない。

【4】薬物療法を中心とした標準治療だけでは限界があり、栄養療法が必要とされている。

【5】にも関わらず、現代医学というのは変わらない。

【6】だからこのままでは日本は滅ぶ。世界で戦争もなくならない。

【7】だからこそ本当の健康、予防、栄養を広めていきたい。

【8】ところがそのような意志を持つ人でも、浅はかな知識と短絡的な考えを持つがゆえに、インターネット上に誤った情報が氾濫している。

 

 ここからインターネット上の食事療法と栄養療法的な情報の批判が開始され、自分の講座だけが真実を握っているかのような誘導へと繋がっていきますが、今日の話は一旦ここまで。

 とりあえず【6】の「日本は滅ぶ、戦争もなくならない」が唐突すぎて笑いを誘いますね。

 本気なのか冗談なのか商売なのか真相を知りたいところです。

 

 【2】の「病気の罹患数は減るどころか増えるばかり」は、数分前にがんの「死亡率」データで日本の危機を煽っていたのに、ここでは「罹患数」としています。

 このように吉冨は、言葉巧みに詐欺を行います。

 真実はここまで説明したきた通りであり、高齢者特有の疾患は、高齢化社会において当然罹患数は増えます。

 しかし全がんの年齢調整死亡率は増えておらず、減っています。

 

 人々を健康に導く立場の人間であれば、もっと妥当な表現があるのです。

 例えば「医療の進歩によって生存率が高まり、結果として高齢化が進み、高齢者に多い疾患の罹患率は高まっている。高齢になっても健康を維持できる栄養学を教えます!」とかね。

 それをやらないのは、本気で現状を理解していないか、または金と思想の問題です。

 ありもしない恐怖と不安を植え付ることは、消費者に金を払わせる最も有効な手段です。

 ただの金儲けでしかないことを、自分は日本を救っているのだという謎の思想と意識が正当化させるのでしょう。

 

 「最先端の医学が波及しても病気の罹患数は減るどころか増えるばかり」という感覚を持つ方が、私のブログ読者さんにも非常に多いと思います。

 これは疾患によります。例えばアトピーなどのアレルギー系疾患と糖尿病は増えているようです。

出典:がんの統計2022 / がん研究振興財団 公益財団法人

 しかし主要な疾患の死亡率は、上のグラフで明らかなように基本的に減少傾向です。

 そうでなければ、ここまで顕著な高齢化が起こりません。

現代医療の役割は対処療法

 「現代医療は対処療法しかしない」という批判がたびたび代替医療と栄養療法サイドからあがります。

 私自身も昔はそう考えていましたが、よく考えると矛盾のある考え方であり、現代医療の役割を理解しないために出てくる発言であるという一面があります。

 吉冨は明言しました。「私はがん患者を数百人診てきたが、食事療法と栄養療法でがん治療は難しい」と。

 現代医療は治療に責任を負いますから、当然のこと、治らない食事療法と栄養療法を選択することはありません。

 医療や行政が食事指導をしていないということはなく、トランス脂肪酸低減化も国をあげての対策と食事指導の一環でしたし、「もっと野菜を取りましょう」とか「バランスの良い食事を取りましょう」と常に伝えているとは思います。

 しかしいくら野菜を食べた方が良いと分かっていても、食べない人もいます。その場合は個人の問題です。

 30年以上前ならともかく、現代では加工食品ばかり食べて健康上問題ないと考える人はあまりいません。 

 

 ちょっとした小話もつけておきましょう。

 最初に述べた通り吉冨は地方青果卸売市場の息子ですが、それにも関わらず2015年前後の断糖肉食的思想にハマっていた吉冨信長はフェイスブックで「フィトケミカルはいらない」「子どもの野菜嫌いは天才の証拠」「小さいお子さんに野菜は基本的に不要」というタイトルで記事をいくつか投稿していました。国政や現代医療を含む世間一般が「子供に野菜を食べましょう」と伝えているにも関わらずです。

 この話を鵜呑みにして子供に野菜を食べさせなくなった人がいたとして、それは政治や現代医療の問題ではなく、個人の問題です。

総括

 以上、吉冨信長を例として、典型的な代替医療、栄養療法の詐欺の手口を公開しました。

 興味のある方は説明会に申し込み、すべて視聴すると良いでしょう。インターネット上に氾濫する極端な情報と不安を煽るネガティブな情報について何度も注意喚起を行いながら、自身の講座は中立公平でどこよりも優れた講座であることをしきりに主張する様子を確認できます。どの口が言うのかと呆れるしかありません。

 崎谷博征、代替医療師vanilla、小笹れん、吉野敏明、吉冨信長、、、全員が「どの口が言う?!」というツッコミどころ満載にも関わらず、吉野以外の全員が「インターネット上に氾濫する(同業者の)誤情報に注意!」と注意喚起をしています。

 これが代替医療、栄養療法、食事療法の世界です。

 極めてレベルが低く、誰一人として科学的反論ができず、極端な思想をもとに極端な情報を拡散してフォロワー数を獲得し、間違いだらけの情報を売って私腹を肥やす。

 どこの派閥が正しいとか間違いではないのです。どこの派閥も間違っています。

 それが代替医療、栄養療法、食事療法の世界です。

 本来食事で健康を維持するという試みは、人類が行なってきた基本的な営みであり、とても大切なことです。また、標準治療以外の治療アプローチがあるのは良いことです。私も精巣がん診断で標準治療を断った1人です。

 しかし教祖的なモンスターSNSアカウントによって、この業界全体が世間からいかがわしいものに見られてしまうことに、私は憂いています。

 

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