臨床栄養医学協会の「年間論文1000本読破」詐欺を暴く、栄養療法ジャーナリストの藤原悠馬です。
本日のお題はこちら。
現代人は脂質過剰
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脂質過剰が相対的な炭水化物不足を招く
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炭水化物不足が糖尿病の原因
この単純方程式を何年もバカの一つ覚えのように繰り返しYouTubeとインスタグラムにアップし続けるのが臨床栄養医学協会の代表、小笹れん。
これが正しい論理であれば問題ありませんが、残念ながら間違っています。
間違っているだけなら、誰でも間違うことはありますし、訂正すれば許されることです。
しかし小笹の最大の問題は、自分の主張を通すために、そもそもの提示しているデータを「捏造」していることです。
事実ではない、「虚偽のデータ」を提示して、データの一部分だけを切り取って「ほらね」と「詐欺」を行なっています。
今日はこのことを説明しましょう。
(↑前回の記事も合わせてどうぞ!)
—目次—
- 「炭水化物↓ + 脂質↑ = 糖尿病↑」という誤解
- 日本の糖尿病有病率は高脂質摂取国より高い
- 各国脂質摂取比データは虚偽
- 脂質摂取比(%E)と脂肪供給量(%DES)の違い
- 高脂肪食、BMI、糖尿病有病率は相関しない
- 脂質摂取量と肥満は相関するのか?
- 日本人と白人のBMIを単純比較してはいけない
「炭水化物↓ + 脂質↑ = 糖尿病↑」という誤解
最新の小笹の動画「『炭水化物を減らすほど血糖値は乱れる!』糖質制限に頼らない食事術」を見てみましょう。
35分の動画ですが、クリックして始まる4:08から9:34までの4分半で十分です。
先に動画を観た方が記事の意味がよく分かりますから、お時間のある方はチェックしてから次へお進みください。
現代人は脂質過剰
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脂質過剰が相対的な炭水化物不足を招く
↓
炭水化物不足が糖尿病の原因
上記主張を、虚偽データと共に説明する動画です。
このような情報発信を、小笹は何年も繰り返し行なっています。
その間に彼の主張を否定する多数の論文が出ていますが、「年間論文1000本読破」は嘘ですから、主張が正しい方向へ修正されることもありません。
彼の虚偽データ利用とデータ捏造を確認するため、いくつかのスクリーンショットを提示します。
欧米8カ国、日本、韓国で計10カ国の総摂取カロリーに対する脂質摂取比率(%)と肥満率(=BMI30以上)を比較した表です。
日本と韓国は脂質30%以下、欧米諸国は脂質35%以上かつ肥満率が1桁違うので、脂質摂取比の高さが肥満の原因だと視聴者に刷り込みたい意図が見えます。
「BMIを欧米人と東アジア人を単純比較してはいけない」という根本的な問題点が見えますが、それは記事最後に解説します。
まずは小笹の作成したデータと主張の嘘とからくりを解説していきます。
小笹は「炭水化物↓ +脂質↑ = 糖尿病↑」という単純方程式を述べています。
ところ小笹が提示した10カ国のうち、1990年から2022年にかけて、日本人とフランス人の女性は糖尿病有病率が減少していることが昨年ランセット誌で報告されています。
NCD Risk Factor Collaboration (NCD-RisC)
“Worldwide trends in diabetes prevalence and treatment from 1990 to 2022: a pooled analysis of 1108 population-representative studies with 141 million participants(1990年から2022年までの糖尿病の有病率と治療に関する世界的な傾向:1億4100万人の参加者を対象とした1108件の人口代表研究の統合分析)”
Lancet. 2024 Nov 23;404(10467):2077-2093.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7616842/
世界的に高齢化の影響もあり糖尿病人口が増えているのは事実ですが、年齢調整をした場合「日本人女性の糖尿病有病率は減少している」というのが事実です。
1990年と2022年の、日本人女性の食事摂取PFCバランスを比較してみましょうか。
1990年は男女別のデータが厚労省にはないため、NIPPON DATAというコホートから得ています(30歳以上の平均データ)。
2022年は令和4年国民健康・栄養調査から、1990年に合わせて30歳以上のデータのみ抽出・加重平均しました。
表を見ての通りですが、炭水化物摂取比は30年間で低下し、脂質摂取比は増加し、糖尿病有病率は減少しています。
小笹の主張は男性ならともかく、女性にとっては事実と全く合っていません。
根本的に論理破綻しています。
日本の糖尿病有病率は高脂質摂取国より高い
小笹は「炭水化物:50〜60% / タンパク質:13〜20% / 脂質:20〜25%」が理想のPFCバランスだと提唱しています。
前回の記事で説明した通り、女性は脂質25%以上を摂取すると全死亡率およびがん死亡率が低下し、炭水化物55%以上で全死亡率が増加することが2023年に報告されています。
男性であれば小笹の提唱は理解できますが、女性にとっては大きな矛盾を孕んだバランスです。
一方で脂質過剰の筆頭であるアメリカを指し、脂質の摂取比が40%前後だと指摘しています。
日本、韓国とのコントラスト、さらには欧米諸国との脂質摂取比30%台とのコントラストで「めちゃくちゃ多い」とアメリカの脂質過剰を強調する小笹。
そして、脂質過剰が糖尿病と関連していると主張。このデータについて以下拡大スクショです。
IDF Diabetes Atlasという世界の糖尿病有病率を算出し、定期的に掲載している「糖尿病の地図帳」のようなサイトがあります。
そこからの情報です。
日本は7.7%であると。
アメリカ
糖尿病有病率 11.4% / 脂質摂取比40%前後
日本
糖尿病有病率 7.7% / 脂質摂取比27〜30%
これが脂質過剰と糖尿病罹患を結びつける根拠であると小笹は説明します。
インスタで人気を獲得した小笹のフォロワーらは、これほど嘘くさく曖昧な説明で納得するのかと驚くのが正直なところ。
私のブログ読者さんなら、気づくでしょう。
「他の国の糖尿病有病率はどうなってる?」
「なぜアメリカのデータだけを提示している?」と。
日本人とフランス人女性の糖尿病有病率はこの30年間で減少していることは先に述べました。
脂質摂取比と肥満率の関係性にしても、関連があるようで、アイスランドの脂質摂取比48%って一体何食ってる?とか、イタリアの肥満率は割と低いけどなんで?とか、かなり疑問が湧きます。
このような不自然なデータ、不自然な切り抜きを行っている場合、即座に疑いをかけるべきです。
実は小笹が提示した10カ国の中で、日本と韓国の年齢調整糖尿病有病率は全てのヨーロッパ諸国より高いのです。
…大事なことなので繰り返しましょうか?(笑)
実は小笹が提示した10カ国の中で、日本と韓国の年齢調整糖尿病有病率は全てのヨーロッパ諸国より高いのです。
皆さんもIDFのwebにアクセスし、Date by countryに設定して、マップで確認してください。
このマップで示されるのは小笹が情報元として提示している「IDF Diabetes Atlas 11th Ed.」のデータですが…あれ?
小笹動画で日本は7.7%としていましたが、元データは8.1%ですね。どこまでいい加減なのだか…
よくもこのような馬鹿げた主張がうん十万の受講料を支払う臨床栄養医学協会の受講生らに突っ込まれずにここまで来たなと感心しますが、脂質摂取割合が高いほど、もしくはBMIが高いほど糖尿病になりやすいという単純な相関性はありません。
各国脂質摂取比データは虚偽
日本と韓国より欧米諸国の脂質摂取比が高いのは事実です。 しかし小笹は実は虚偽データを提示しています。
2017年〜2021年の脂質摂取比(%)を彼は提示していますが、その期間中の脂質摂取比を公開していない国があります。
日本は毎年厚労省が「日本人の食事摂取基準」を発表し、その中で脂質摂取比が男女年齢別に公開されます。
しかしフランスやオーストラリアの同様の調査はおおむね10年ごとのサイクルです。
従って、現在入手できるフランスの最新のデータは2014〜15年調査のもの、オーストラリアは2011〜12年調査のものとなります。
従って、ここには「あるはずのないデータ」が掲載されており、その上、おそらく脂質摂取比(%E)ではなく、脂肪供給量(%DES)を示しています。
脂質摂取比(%E)と脂肪供給量(%DES)の違い
脂質摂取比(%E)とは総摂取カロリーの中の脂質が占める割合です。
脂肪供給量(%DES)の DES は Dietary Energy Supply を指し、FAO FBS(FAO食料収支表) に基づく国民一人当たりの 「食用脂肪エネルギー供給」 の比率です。
詳しくは以下。
脂肪を含む食品の国内総生産量
+ 輸入量
− 輸出量
± 在庫変動
− 非食用用途(飼料、種子、工業用等)
− 流通・加工段階での損失
= 国全体の「食用として利用可能な量(可食量)」
→ これを脂質含量で換算 → エネルギーに変換 → 人口で割ったものが「1人当たりの脂肪供給量」
脂肪供給量(%DES)は、総エネルギー供給量内の脂肪供給量の割合ですね。
注意点として、小売以降(家庭・外食)での調理損失や食べ残しなどの食品ロスは控除されていないため、一般に個人栄養調査で得られる脂質摂取比(%E)より高い値となります。
FAOSTAT – Food Balances (2010-)
データは上記サイトから得ることができますが、日本語サイトなら以下サイトで確認可能です。
世界の1人当たり脂肪供給量 国別ランキング・推移 – GLOBAL NOTE
では、小笹の提示データ、脂質摂取比(%E)、脂肪供給量(%DES)を並べて見てみましょう。データは入手できる最新のものを利用しています。
小笹データはおおむね脂肪供給量(%DES)と一致し、実測値である脂質摂取比(%E)よりも、脂肪供給量(%DES)は日本以外の国で多くなっています。
これにより、脂肪供給量(%DES)を用いて脂質摂取量の各国比較を行うと、日本以外の国は実際よりも多い脂肪量を摂取しているように見えてしまいます。
小笹の巧妙な詐欺の手口をお分かりいただけるでしょうか?
もしくは、ChatGPTで表を作成したものの、本来用いるべき実測値(%E)と脂肪供給量(%DES)の違いを理解していないため、本人もこのことに気が付かずデータを提示しているのかもしれません。
意図的か無自覚かは不明ではありますが、小笹の提示する各国の脂質摂取比率(%)は虚偽データです。
「脂質過剰→肥満→糖尿病」という主張をする目的に沿った捏造データと言えるものを平然と動画で利用しています。
現時点(2025年7月)で入手できる正しい情報と情報元を以下に示しておきますのでご確認ください。
10カ国の脂質摂取比(%E)
アイスランド:脂質36.2%(2002)
ソース:アイスランドの国家栄養調査と食生活の変化
アメリカ:脂質35.6%(男)脂質36.1%(女)(2020-2021)
ソース:CDC
オーストラリア:脂質30.7%〜31.2%(2011-12)※19〜70歳
ソース: オーストラリア統計局
イギリス:脂質34.1%(2016-2019)※19~64歳
ソース:イングランド公衆衛生局
カナダ:脂質31.6%〜32.9(2015)※19~70歳
ソース:カナダ統計局
ドイツ:脂質33.2〜36.2%(2006〜2007)※19~64歳
ソース:ドイツ国民栄養調査
フランス:脂質33.9%(2014-2015)
ソース:フランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)
イタリア:脂質36.0〜36.8%(2005〜2006) ※18~64.9歳
ソース:イタリア国民食品消費調査
日本:脂質28.7%(2023)※20歳以上
ソース:令和5年国民健康・栄養調査
韓国:脂質25.5%(2022)※19 歳以上
ソース:Korean J Intern Med. 2025 Mar 25;40(3):427–437
高脂肪食、BMI、糖尿病有病率は相関しない
では情報を整理していきましょう。
以下、小笹が作成した虚偽データを、私が正しく作り直し、全ての国の糖尿病有病率を付け加えた表です。
脂質摂取比 %Eは先に提示した入手可能な最新データ、脂質肥満率はWHO2022、糖尿病有病率はIDF2024を用いています。
Obesity Rates by Country 2025(年齢標準化肥満率)
IDF – The Diabetes Atlas 11th Edition(糖尿病有病率(20–79歳、年齢標準化))
よく見てください。小笹の動画をもう一度観てからこの表を見直すと、少なくとも脂質摂取比と糖尿病有病率の相関性は見えなくなるはずです。
では分かりやすく順番を糖尿病有病率が高い国順に並べ替えましょうか?
あらま(笑)
アメリカに次いで韓国と日本が高いのですね。
しかも全ての脂質リッチ食ヨーロッパ諸国より、日本と韓国の糖尿病罹患率は高いのです。
脂質摂取比の多さ = 耐糖能悪化 = 糖尿病リスクという小笹の論理は完全に崩壊していると言えるでしょう。
では脂肪摂取比の高い順に並べ替えた表を見てみましょうか。
肥満率、糖尿病有病率、ともに全く関連性が見えませんね。
小笹はフランスの肥満率と糖尿病有病率の低さをどう説明するつもりなのでしょうか?
ちなみにフランスは2006-2007年データでは脂質摂取比38%でした(出典)。
現在のアメリカを超える脂質過剰ですが、それでもアメリカより肥満も糖尿病も少ないのです。
脂質摂取量と肥満は相関するのか?
それでも日本と韓国は肥満率が一桁違って、脂質摂取比が平均30%を超えていないから、脂質摂取量と肥満だけは相関する……なんて思いますか?
では肥満率の高い国順に並べ替えた表を見てみましょう。
注目ポイントに色付けときました。肥満が最も少ないのは日本ですが、肥満率2位のオーストラリアと2%脂質摂取量が異なるだけ。
2011-2012のデータですから現在ではもっと脂質摂取量が増えているかもしれませんが、まあ同じことです。
数%の脂質摂取比が、肥満率6倍以上の差をつけますか?
カナダもオーストラリアに毛が生えた程度の脂質摂取比ですが、それが日本との肥満率の差となりますか?
フランスもイタリアもドイツもアイスランドも、もっと脂質摂取比が多いのですが、なぜオーストラリアやカナダより肥満率が低いのでしょうか?
韓国は最も脂質摂取比が低いのに、日本より肥満も糖尿病も多いのはなぜですか?
わかるでしょうか。
小笹の論理は矛盾だらけです。
脂質摂取比と肥満が単純に比例するわけではないことが分かりますね。
日本人と白人のBMIを単純比較してはいけない
前述の「BMIを欧米人と東アジア人を単純比較してはいけない」の話をしておきましょうか。
ヨーロッパの白人は、日本人や韓国人と比較して、筋肉量が多く、骨も大きいため、肥満に限らずBMIは高めに算出されます。
逆に言うと、同じBMIでも日本人や韓国人は白人と比較して体脂肪率が高くなりがちです。
さらに日本人や韓国人に蓄積しやすいのは皮下脂肪ではなく、糖尿病のリスクとなる内臓脂肪です。
だから日本の肥満の定義はBMI25以上で、欧米の定義は30以上という差が設定されているのです。
日本人を対象として行われた2型糖尿病患者26人と健常者32人を対象にインスリン感受性を測定する試験では、BMI23以上で糖尿病リスクが有意に上昇するという結果を得ています。
Tsuyoshi Okura et al.
“Body mass index ≥23 is a risk factor for insulin resistance and diabetes in Japanese people: A brief report(日本人におけるBMI23以上はインスリン抵抗性と糖尿病の危険因子である:簡潔な報告)”
PLoS One. 2018 Jul 20;13(7):e0201052.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30028879/
日本人にとってはBMI23から糖尿病リスクが考えられるわけですから、小笹が提示した「肥満率 = BMI30以上」を糖尿病リスクと関連させ、欧米人と日本人を単純比較するのは不適切だと分かりますね。
このような話もエネルギー代謝学第8回「ランドルサイクルの真実(仮)」で詳しく解説しますので、臨床栄養医学協会で間違った栄養学、間違った生化学を刷り込まれてしまった方は、ぜひ私の講座でアップデートしていただければ幸いです。
特に小笹の「嘘ランドルサイクル」はきちんと勉強し直し、正しい理解を得るべきでしょう。
タイトルは(仮)としてますけど、より適切なタイトルが思いついたら変えるかもしれないので(仮)なだけで、ランドルサイクルがメインテーマの講座です。
小笹とは「次元の違う講座」をご体感頂けることでしょう。
れんのYouTube栄養大学コメント欄より
最後に当記事でピックアップした「『炭水化物を減らすほど血糖値は乱れる!』糖質制限に頼らない食事術」のコメント欄を見てみましょう。
脂質減らして小笹が推す白米を食べるようにしたら14kg太ったという女性からの報告(笑)
脂質摂取は20g〜40gということで少なすぎるのが問題であり、報告が正確かどうかも不明ですが、女性の身長と体重によっては脂質40gで小笹の推奨する脂質20%〜25%の範囲内に入ります。1日摂取カロリーが1800kcalであれば脂質40gでちょうど脂質20%です。
おお、話し合う気があるんかい?
小笹よ、連絡待ってるぞ。
臨床栄養医学指導士の資格取得者の皆様も、代表の背中を教えて上げてくださいね。
Information
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