健康的なPFCバランスは男女で異なる

 最近はブログもインスタもサボり気味でもっぱらX農民化してますが、久しぶりの栄養系の投稿です!

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—目次—

  1. PFCバランスとは
  2. 時代は「ゆる糖質制限」になった?
  3. 時代は脂質オフになった?
  4. 脂質オフを勧める崎谷博征、代替医療師バニラ、小笹れん
  5. 高炭水化物食 / 高脂肪食が健康に与える影響
  6. 健康的なPFCバランスには男女差がある

PFCバランスとは

 PFCバランスとは、

 P(Protein:タンパク質)

 F(Fat:脂質)

 C(Carbohydrate:炭水化物)

 の、摂取エネルギー(カロリー)の中で締める割合ですね。


日本人の食事摂取基準2020年度版 / 厚生労働省

 厚生労働省は日本人の食事摂取PFCバランスの目標量を、

 P:13〜20%

 F:20〜30%

 C:50〜65%

 と定めています。

 私は今までPFCバランスにあまり興味がありませんでした。

 これは栄養の勉強を始めた頃、近藤 正二 (著) 「日本の長寿村・短命村 新版: 緑黄野菜・海藻・大豆の食習慣が決める」や、ウェストン・プライス(著)「食生活と身体の退化: 先住民の伝統食と近代食その身体への驚くべき影響」に影響を受け、2名の先人の見解に納得していたため、最も重要なのは「割合ではなく質」だと考えていたからですね。

 だからこそ具体的に「○:○:○%が理想!」など考えたことはありませんでしたが、世の中は未だに糖質制限 VS 脂質制限の論争は続いており、人々の関心のテーマであるようです。

 PFCのうち、Pの大量摂取を勧めているのはボディビルまたはハードな糖質制限系の人だけだと思われますが、FとCに関しては論争があり、エネルギー源を、どの程度糖から得るか、脂質から得るか?というテーマは今も受講生さんよりご質問をいただきます。

 日々の食事の中で、「あ〜炭水化物(または脂質)食べ過ぎたな〜」と、皆さんも考えることがあるでしょう。ダイエットの普遍的なテーマでもあり、真面目に考えてみるのも面白いかもしれません。

時代は「ゆる糖質制限」になった?

 その昔(2015年前後)は、高雄病院の江部康二医師を筆頭として「1食糖質20g以下」のスーパー糖質制限が流行しました。私も過去のブログで記録しているように、実践したことがあります。

 しかし「こりゃ続かないし健康に良いとは言えないよね」という認識が現在では一般的となり、代わりにゆる糖質制限が流行しているように思います。

 現在において糖質制限の旗振り役として元気なのは、北里大学の山田悟医師でしょうか?

 私は未読ですが「長友佑都のファットアダプト食事法」の監修者として有名です。

 「油の多過ぎはほぼ全ての人にとって存在しない」とセンセーショナルな発言を残していますが、彼が提唱しているのは「ゆる糖質制限」です。

 この動画を観る限りは「糖質40%くらいまで」と「満足するまで脂質を摂取せよ」を推奨している印象です。

 人気美容家の神崎恵も「ゆる糖質オフ」を実践しているようです。

【神崎恵ボディの秘密】一度くらいは自分の体を好きになってみたい!(Voce)

「体重ではなくボディラインをチェック」美容家・神崎恵流、トレーニング方法&食事の注意点(Domani)

 とはいえ上記は2020〜2022年の記事なので、今現在はどうしているかわかりませんが、ダイエット=糖質制限と考える人は今も一定数いるでしょう。

時代は脂質オフになった?

 一方で「ゆる脂質オフ」もやや流行しているか、今後流行する可能性はあります。

  岡田氏は極端な食事制限を勧めてはいませんが、ボディビル系の人は体脂肪の少ないムッキムキの身体をつくることを目指し、糖をエネルギー源とする速筋を増やすようなトレーニングを行うため、脂質オフを推している印象があります。

 美容もボディビルと同じくして「狙った見た目をつくる」ものですから、時代は糖質オフから脂質オフだとする記事も見かけました。

    糖質オフはもう古い!?爆売れダイエット本の著者が教える「大人世代は脂質オフ」(美ST)

 森拓郎による上記ブログ内では「たんぱく質20%、脂質25%、炭水化物55%のバランスが無理がなくお勧め」としており、他の一般記事をあたってみても「脂質25%」というのが、ゆる脂質オフ派の共通した意見のように感じられます。

 脂質25%は厚労省が掲げる目標量のど真ん中なので、脂質制限というよりは「摂りすぎるな」というスタンスですね。

脂質制限を勧める崎谷博征、代替医療師vanilla、小笹れん

 より過激な脂質制限推進者は、当ブログでお馴染み、代替医療師vanilla & 崎谷博征です。

 彼らの口からPFCバランスなど聞いたことは私はありませんが、「調理油を使うな」「豚の脂も食うな」と発信しているため、結果的に真面目なフォロワーが脂質制限食を実践する羽目になります。

 彼らは私が外食を何度も共にした経験上「調理油を使って調理したものを何でも食う」のですが、彼らの提唱する健康法を信じ込んだ人が、調理油はもちろん豚バラ肉さえ食べない生活を実践し、不健康に痩せていくケースがよくあります。

 彼らのフォロワーである、臨床栄養医学協会の小笹れんは明確に理想のPFCバランスをSNSで提示しています。

 画像はYouTube動画「白米・パンは食べていいんです!太らない摂取方法を栄養のプロが徹底伝授!」のスクショですが、この動画以外でも小笹は「炭水化物:50〜60% / タンパク質:13〜20%」「脂質:20〜25%」を提唱しています。

 これは年間論文1000本読破詐欺を平然と行う小笹らしい提唱です。この理想バランスは、炭水化物とタンパク質を下限に合わせると合計100%にならず、根本的に矛盾を孕んでいます。

 この馬鹿げた提唱は一旦置いておくとしても、彼は厚労省の定める目標量「脂質:20〜30%」のうち、半分を(26〜30%を)「理想ではない」としているようです。

 別の動画では脂質20%を「これでいいんですよ」とコメントしていますが、平均的な脂質摂取割合を20%に持っていくのはかなり厳しいです。

 一食単位であれば全然あり得る割合ですが、1ヶ月や1週間平均はおろか1日平均でも脂質20%はかなり難しい低脂質食です。

高炭水化物食 / 高脂肪食が健康に与える影響

 以上のネット情報から「推奨脂質摂取割合」をまとめます。

 糖質オフ派(山田):30〜40%程度

 脂質オフ派(岡田、森):25%前後?

 脂質オフ派(小笹):20〜25%(明言)

 脂質オフ派?(代替医療師vanilla / 崎谷博征):推奨割合不明だが調理油、揚げ物、ナッツ、豚の脂等はNG

 ということになりますが、炭水化物や脂質の食事摂取割合が健康に与える影響について、今現在どのような研究報告がなされているのでしょうか?

 検索してすぐにヒットするのはJ-MICC研究(日本多施設共同コーホート研究)です。

名古屋大学・研究成果発信サイト
炭水化物・脂質の摂取と死亡リスクとの関連 〜極端な食事習慣が生命予後(寿命)に影響を与えることを発見〜

Takashi Tamura et al.
Dietary Carbohydrate and Fat Intakes and Risk of Mortality in the Japanese Population: the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study(日本人における食事性炭水化物・脂肪摂取量と死亡リスク:日本多施設共同コホート研究)
J Nutr. 2023 Aug;153(8):2352-2368.

 名古屋大学の研究グループは、J-MICC 研究の参加者約 8.1 万人のおよそ 9 年間の追跡調査によって、日本人の炭水化物・脂質摂取量と死亡リスクとの関連を評価しています。以下はプレスリリースの冒頭に記載される総まとめです。

 「結論:男性の低炭水化物摂取、女性の高炭水化物摂取は死亡リスクを高める」と記述があります。

 

 大事なことなのでもう一度繰り返しましょうか。

 「男性の低炭水化物摂取、女性の高炭水化物摂取は死亡リスクを高める」です。

 

 PFCのうちFとCの健康的な摂取割合は、かなり男女差が大きいという結果となっています。

 女性は5年以上の追跡期間で分析すると、炭水化物摂取比55%以上の群では、50〜55%摂取群と比較して、全死亡リスクが32%〜71%上昇しています。

 

 一方、脂質摂取比は小笹の推奨する20〜25%を基準として、30%〜34%で全死亡リスクが5%低下、35%以上で17%低下しています。

 興味深いのはがん死亡率で、女性は脂質摂取割合が高いほど死亡リスクが低下する傾向がより顕著です。30%〜34%で13%低下、35%以上で24%のがん死亡率低下という結果となっています。

 プレスリリースは以下の文章で締めくくられています。

 ”本研究は、喫煙や飲酒などの交絡要因を統計学的に調整したうえで、日本人の極端な炭水化物摂取および脂質摂取が「長期的な生命予後」に影響を与える可能性を示しました。「ローカーボ食またはハイカーボ食がよい」、「脂質摂取はできるだけ控えたほうがよい」とする食事習慣の見直しを提案しています。”

 まさにその通りであり、2023年に発表された非常に重要な研究報告です。 追跡調査の結果が待ち望まれます。

健康的なPFCバランスには男女差がある

 この研究報告を見ると、当ブログで言及している崎谷式/Vanilla式ダイエットおよび彼らのフォロワーである小笹れんの「糖質至上主義 / 脂質オフ」的な考え方は、女性にはかなり危険である可能性が見えてきます。

 年間論文1000本読破のはずですから、当然この論文を読んだ上で、女性に対して「炭水化物67% / 脂質20%で良い」とアドバイスをしているはずですが、その根拠をご解説願いたいものです。

 

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藤原 悠馬生化学(生物学) / 西洋占星術
セミナー / セッション

「症状の原因を根本から読み解く エネルギー代謝学」セミナー主宰。細胞レベルの代謝、病理、自然界、食文化を縦横無尽に繋ぐ他に類を見ない圧倒的な俯瞰力と分析力が話題を呼び、全国から多数の現役医師、治療家、薬剤師、美容家、栄養士、料理人、ボディインストラクターなどの健康・治療業界のプロから一般の主婦までがセミナーへ集う。どこにも所属しない、日本で唯一のフリーランスの生化学講師。2019年より「生化学講師が教える 占星術の基本の考え方とホロスコープチャートの読み方講座」を始動。IC魚座29度「プリズム」/MC乙女座29度「読んでいる書類から秘密の知識を得る男」。全ての生命の普遍的な創造原理を、文献や生活の全てから抽出し、具体化するのが生業。

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